金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

酵母無添加生酛を考えてみる。

数回にわたり「生酛系」の酛をつづって参りましたが、今回でひとまず「完結」したいと思います。

生酛系は天然水仕込みで醸造用乳酸不使用で清酒酵母無添加で造る商品というのが最近よく見受けられます。

スーパーオーガニック仕込みを目指すならば、更に「有機米」を使いたいところ。

地方の中小酒蔵にとっては、県保有酒米を使って上記のスペックで仕込んだ商品は、最高の差別化が図れそうです。

その代わり「高く売れ!」ってね。

究極のハイスペック酒で、例えば50%精米の純米吟醸を造ったとしたら、個人的な希望も合わせて言わせてもらえるなら、720㍉㍑で最低でも¥10000の値付けにチャレンジしたいなぁと。

そのリスクと苦労を考えて、日本酒の将来を模索したら最低これくらいのプライスは欲しいです。勿論、原価を算出してからの話になりますけど。

輸出用なら絶対このレベルでものを考えてみる必要性があると思いますし、1.8㍑の設定さえ却下で良いと思います。

日本酒の価値を向上させるには、こういった試みはどんどん各蔵がチャレンジすべきですし、何より酒類業界に関わる川上から川下の各業態が今後生き残っていくためにも攻めるべき領域でしょう。

清酒酵母無添加に話を戻しますが、僕が働いている蔵では「生酛」はやってますけど、清酒酵母無添加はやっていません。

理由は、うちは酛場が狭くて酵母無添加生酛をやるだけのスペースを確保する余裕がない為です。前のブログで書きましたが、2種類の乳酸が無事に生成されて、亜硝酸反応も無事に消滅したタイミングで通常なら狙った酒質に伴う清酒酵母を添加するタイミングとなるわけですけど、無添加生酛の場合、いわゆる「蔵付き酵母」が自然と生酛モロミに混入してくるのをじっくりと待つ必要があります。

いつ、蔵付き酵母の混入が行われるかは不明でして成分分析を日々繰り返しながら、地道に「待つ」必要性が出てきます。

よって、仕込み場のキャパに余裕がないと、その仕込みタンクを制限なく置き続けることができませんし、仕込み予定にも余裕がないと、その生酛系酒母が仕上がるのが予定できない中での造りに対応できないとならず、製造予定にも関係してくる課題でもあるのです。

更に付け加えたいのは、混入する酵母がどんな性質の酵母なのかわからないということ。
造り手としては、カプロン酸エチル系か酢酸イソアミル系なのかくらいは仕込む前に最低限知っておきたい要素ですけど、酛を順調に育てて、モロミになってしばらくしないとどんな酵母なのか判別するのが難しいはずです。

しかもその判別方法は、「官能」によるもの。

どんな酵母が働いているのかは、造り手の香りの判断でわかるはず。

そう考えると、酛の段階で蔵付き酵母の系統の判断ができずに酒の表情である酵母の判断ができないとなると、やはり納得のいく造りになっているのかどうかというのが我々の考え方となります。

あくまでも、蔵付き酵母は「最高の差別化」が図れますし、飲み手のニーズは間違いなくあると思いますので、是非チャレンジできる蔵はやるべきと思います。

ただ、どんな酵母が育っているかがあいまいな造りを僕はやりたくないだけですので、そこは「酒屋万流」としてご理解頂きますようお願いします。

まとめますと、酵母無添加の生酛系酒母に挑戦する価値は大いにあるが、環境的な問題や仕込みスケジュールに余裕を持たせる必要があるということ。そして、どんな系統の酵母が混入しているのか判別できるのにある程度の時間が必要になる。ということになります。

無添加酵母のリスキーな点を付け加えるなら、混入している酵母清酒酵母とは限らず「野生酵母」が多くなる点です。そうなった場合、どうしてもモロミ管理の段階でアルコールの生成が悪くなったり、ボーメの切れに鈍りが見えたりで、その証拠に市場に出ている酵母無添加のお酒にはアルコール分が15%に満たないものもチラホラ見えるのはその為と考えます。ただ、「希少性」や「独自性」という部分を考えたらニーズはあるでしょうから、メーカーとして「オンリーワンの酒造りです!」って言っちゃえば成立するかなとは思います。

僕は安全醸造を基本に造りを進めたいタイプなので、「無添加」は今のところ遠慮したいと思いますが、やらない理由としてそもそも清酒酵母って別に毒ではないし、普通に「生き物」なだけで人体に良くない影響をもたらすものではないでしょうから、清酒酵母が育つ環境が整った状態なのであれば清酒酵母の添加は現代の酒造りとしたら決して問題はない行為なのだと思います。その方が安心ですしね。結果しっかりした酒になるわけですから。

色々と生酛系のあれこれを語ってきましたが、造り手は自然と難しい造りにチャレンジしたくなるものということもあると思います。飲み手の皆さんにとっても生酛系ってジャンルを色々と考えてみるきっかけとなればと思います。

生酛 ~ なぜ摺る(する)か? ~

酛を語り始めて何回目になるでしょうか?

前回の「生酛系」の続編になりますが、ちょいと内容が高度になりそうなので、なるべく分かりやすく説明したいと思います。

生酛と山廃の違いは、酛摺り(もとすり)という作業を行うか否かによります。酛摺りとは、蒸米と米麹と水を仕込んだ翌日に、櫂棒(かいぼう)という道具を使って、米麹の酵素の作用以外に人為的に蒸米を摺りつぶす作業のことを言います。

酛摺りのやり方は蔵によってマチマチでして、小分けにして櫂棒で摺るところもあれば、ビニール袋にモロミを入れて手でもみほぐすように行う蔵もあったりで決まった型はありません。

ちなみに僕は少しでも労力は省きたいタイプなので、「電動ドリル」を使っちゃいます。

で、

なぜ摺るのか?ですけど、それは蒸米を半ば強制的に溶解することで濃糖状態の環境を整備するためです。

野生酵母など、狙った酒質にするためにセレクトした酵母以外の微生物が混入して、大事な生酛工程の初期段階に色んな「いたずら」をされると理想とする酵母を育てることが難しくなってしまいます。

酛を摺らない山廃の場合、濃糖が中途半端だと良からぬ微生物達にとっては、ちょうど良い「エサ場」となる可能性も高いのです。

ただそこは酒蔵によって考え方はそれぞれですし、杜氏さん一人一人のやり方を僕は前向きに尊重すべき部分であると認識しておりますので、どうこう言うつもりはありません。

色んな考え方や手段があってしかるべきですから。

先ほど述べたように、僕は電動ドリルで短時間に3時間おきくらいに分けて酛摺りを行います。

それこそ「ドロドロ」になるまで。

何でそうするかは、うちの酛場の環境が雑菌や野生酵母に犯されやすいというのがあります。やむなく酛場を冷蔵庫がわりに使っている面が多く、商品をストックしておく段ボールモノがたくさん存在する環境なので、「手早く、サクサク」っと濃糖状態にモロミの状態を整えることで「リスク」を減らしたいわけです。

もし、せっかく仕込んだモロミが変異したりすれば、その後の仕込み予定に変更点が生じたり、そのモロミを廃棄せざるを得なくなり、コストもかさみます。「安全醸造」を第一に考えた時に、その環境も踏まえたら、ドリルで、短時間に、省力化で。という結論に至ったのです。更には山廃でなく生酛ということで。

まぁ櫂棒で摺るよりドリルはより細かく「摺れます」。

生酛系の仕込みは、独特の風味が楽しめます。速醸酛よりもアミノ酸の仲間の「ペプチド」が豊富に存在しており、酒に個性と付加価値を与えやすいです。

ただね、飲み手の方がそのお酒を口に含んだ時に、この生酛は櫂棒で摺ったか電動ドリルで摺ったかどうかまではわからないでしょうから、そこは「酒屋万流」を優先して考えたら良いと思います。

最後に生酛の酒質に関してですが、ペプチドが豊富だと先ほど述べたようにメリットもありますが、度を越すと酒がくどくて重く感じたりします。

ここ数年の流行でもあるのですが、生酛と言えども「キレイで軽快に」造る!これ必須と思います。

皆さんも是非色んな生酛系のお酒に触れていただけたらと思います。

「生酛」←読めますか?

前回のブログで「酛」特集をやってみましたので、その流れで生酛系のお話をやってみたいと思います。

生酛と書いて「きもと」と読みます。

山廃と書いて「やまはい」と読みます。

まぁ日本酒に詳しい方にはそれくらい読めるよって感じでしょうけど、馴染みのない方には全くイメージしにくいキーワードだと思います。

酛という工程が、水、米麹、水、酵母 を主な原料として、しっかり「湧かせる」ことが健全で大量で元気な酵母が育つ基礎になる、ことを昨日のブログで紹介させてもらいました。

清酒酵母を純粋培養していくためには、「酸性の環境」が重要になりまして、その酸性状態を人工的に作り出すために、上記の原料に加えて「醸造用乳酸」というものを使います。

標準使用量は、100リットルあたり500~600ミリリットル程度となりまして、現代の日本酒造りの安全醸造を語る上では外せないアイテムとなっております。醸造用乳酸の原料は「じゃがいも」。意外に酒造業界の人間でも知らない人が多いです。

そんな「人口的醸造用乳酸」を用いないで、酸性状態を作るにはどうしたらよいか?

それが生酛系の酛の真髄となるのです。

生酛系酒母は微生物の変遷と淘汰によって成立します。酒蔵には井戸が備わっているのが普通で、井戸水の中には土壌から染み出る「硝酸還元菌」が存在します。米、米麹、井戸水を利用した仕込み水をタンクに入れて、5~7℃の低温で数日間キープします。すると硝酸還元菌から「亜硝酸」が生成されます。亜硝酸が残存しているうちに、レウコノストックメセンテロイデスという乳酸菌とラクトバチルスサケという2種類の乳酸菌を生成するようにモロミを加温し続けます。亜硝酸は熱に弱いので、この二つの乳酸菌が生成していくにつれて自然と消滅していきます。最後にしっかりと2種類の乳酸菌が「植物性乳酸」へと変遷し、清酒酵母がモロミに入る前にはきっちりPHが下がっているというカラクリになるのです。

生酛系酒母は中性からスタートさせ、清酒酵母が成長し始める頃に酸性状態に世界が変わります。

以上のように、まだ人工的な醸造用乳酸がこの世に存在しなかった時代に、このいかに酸性状態を造り出すか?というバイオテクノロジーの原理原則に則った形を自然と発明した人は、まさにノーベル賞級の「発明」だと感じます。

多くの造り手達が生酛系の造りに一種のあこがれを感じると言われるのも、こういった微生物の働きを誘導していく造りに奥深さや複雑さを感じるからではないでしょうか?

酸性状態になったモロミには、清酒酵母を添加する蔵もあったり、蔵付き酵母がしぜんとモロミに混入してくるのを待つなど、造り方は多種多様です。

酵母が入ればあとは健全に清酒酵母の育成をうながしていけば終了!

大体、酛日数だけで25日くらいはかかりますから、醸造用乳酸のありがたみがつくづくわかります。それだけ時代の変遷とともに、醸造技術の進歩も大きい影響を及ぼしていると思います。

生酛酛と山廃酛の違いはまた次回ということにさせて頂きますが、酒母の種類や効果を皆さんご理解いただけたでしょうか?

生酛系は造り手の誇りです。

なかなか全部の造りを生酛にするというのは大変なことだと思いますが、少しでも多くの皆さんには「生酛とはなんぞや?」を少しでも頭に入れながら飲んでいただけますと、より理解が深まると思いますよ!

酒母 or 酛(もと)?

飲み手の皆さんにはあんまり馴染みがないと思いますが、日本酒を造る工程の中に酵母を育てる「酛」(もと)と呼ばれるものがあります。別名 酒母(しゅぼ)と呼ぶ人もいるのですが意味は同じです。

日本酒は「並行複発酵」という一つのタンクの中で、糖化と発酵が同時に行われる極めて酒類の中では稀な発酵形態をとるのですが、順調な並行複発酵経過をたどるには、強くて多くの健全な清酒酵母の力が不可欠となり、それらはこの酛という工程でしっかり造っておくことが求められるのです。

日本酒の酵母の育て方を「拡大培養」と呼び、酒蔵で使われる酛になるまでは、醸造協会や各県の研究所まどで寒天培地から植菌したりして高濃度アンプルを造るところから、実際の酛を仕込む時に酵母の添加を行い、酛工程にて更に酵母の数や体力を増やしていくという方法で、酵母を分裂させながら強さも加味して育てる方法を取るのです。

酛にもいくつか手法がありまして、1.一番オーソドックスで手間暇がかかる普通速醸酛、2.普通速醸より高温短期経過をたどる高温糖化酛、3.蒸米を省力化したアンプル酛、4.天然乳酸菌の生成から長期で高度な技術を要する生酛山廃酛、5.液体培地ではなく乾燥酵母を使用する酛 など、各蔵ごとに造るお酒のタイプによって酛の型を使い分けています。

生酛山廃酛のような特殊で中々育成するのに
難しい酛を採用する場合は、それだけでその商品としての「付加価値」は上がります。

僕の場合は、上記の高温糖化酛以外の酛の型を仕込み計画や造るお酒のタイプによって使い分けています。

酛を育成するための原材料は、日本酒を造るのに認められている米、米麹、水と酵母と生酛山廃酛でなければ醸造用乳酸となります。原材料としてラベルに表記義務のない「その他の物品」というのもありまして、清酒酵母がより健全に成長できるように仕込水の加工をする蔵もあります。そのような所は、軟水を硬水にマイナーチェンジさせたり、酵母が成長しやすいように水の成分を加えてあげたりして、一手間かけます。

酸性リン酸カリウムやカルシウムやクロールなどがそうですが、僕の蔵では井戸水の成分的に不要なのでやりません。

強くて多量の清酒酵母を育成するには「湧き」が重要です。普通速醸酛だと大体17~19℃くらいの品温を3日程キープすると酛の液面に大きな泡が出たり、液面が膨らんだり、姿形はありませんが「生きて」いる信号をしっかり発信してくれます。この反応をちゃんと見逃さないことがこの工程の大きなポイントで、上手に狙った品温をキープできるかどうかが重要です。

酛の割合ですが、一仕込みで使用する米の7%程度が標準となっており、お酒にした時にどれほど香味に影響が出るかどうかはそれほど感じられないと思います。しかし、繰り返しになりますが、しっかり湧かせて元気で多くの「兵隊達」を擁することが、この後の3段仕込みと長期低温発酵につながる基礎となるのです。

清酒酵母は発酵によって自身が生成されたアルコールが高くなるにつれて死滅率が上がります。

酛はアルコールを出すことより、「数をふやすこと」を考えれば安全醸造につながるでしょう。

今回は「酛」を紹介させていただきました。

税務調査がありました。

本日のテーマをご覧になった方は、映画マルサの女を想像した人も多いのではないかと思いますが、あれは脱税逃れを主な目的とした法人に税務署の「ガサ」が入る場面を興味深く映画化したものでした。一般的に酒蔵を対象とした税務調査なるものは、法人税の追加徴収を目的としたものではなくて、通常業務の中での「酒税法」に基づく業務遂行がそれに則ったものになっているのか、税務署の認識と酒蔵側の認識に差異がないかなどを主に確認し合うものでして、大体2~3年に一度の割合で税務署の担当者が酒蔵に出向いて、1~3日程度の時間を要して調査するといった内容となるのです。

調査内容は、業務遂行における「記帳」という義務が僕ら蔵人にはあるのですが、モロミや酒母の製造帳簿や使用米の用途を確認するための受払帳簿、更にはビン詰め帳簿だったり、調合や割り水の行為に関係するタンク移動帳簿や割り水帳簿などを全てチェックされます。

あとは、酒屋さんからの返品に関係する戻入に関する記帳だったり、現在の商品別在庫数量なんかも1本の違いも厳しくチェックを受けます。

ビンが割れてしまってお酒が流れてしまった際の破損処理はちゃんと成されているか、試飲で処理したものがちゃんと課税扱いになっているかなど、事細かにチェックは淡々と進んでいくのです。

チェックされるのってやっぱりあんまり気持ちの良いものではないですよ。

僕なんかはある程度ベテランの域にあり、税務調査自体も製造責任者として3~4回の経験がありますが、毎回多少の緊張感を味わいながら、無事に事が済んでくれたらという淡い希望を持ち合わせて望んでいます。

税務署の職員さんも、確認作業はもうお手のものでして、その処理のスピード感たるや感心するくらい素晴らしいのですが、「こりゃごまかそうにもごまかせないや」と内心やっぱり仕事は正直に向き合うに限ると背筋の伸びる感覚を覚えます。

もし間違いがあった場合や微妙な記帳された数字の誤差などがある場合は、僕らはその質問に真摯に答えなければならない義務がありまして、その間違いが故意であったのか否か、無意識のうちにやってしまったことなのかどうかを釈明する必要があります。

税務署員さん達の心理としましては、もちろん不正があれば送検できる権利を持ち合わせているわけですが、税務調査は決してガサ入れはなく、事前に日程の相談の電話をくれて、調査内容も大体こんな内容です。といわば試験に出るところを事前に教えて頂けるような「気遣い」を見せてくれますので、こちらも仕事として参りますから、その辺しっかりお願いしますよ、といったところではないでしょうか。

酒蔵のほとんどが中小零細がほとんどですし、やや厳しいおとがめを施せば、そのまま蔵が吹っ飛んでしまう可能性もあるわけですから、誠実な対応さえ心がけていれば、「生かして殺さず」としてくれるケースが少なくない気がしています。

日本酒は水物ですので、きっちり合わないことが「普通」ですから、税務署員さんもその辺はよくわかっているので、記帳内容もしっかりした「ストーリー」を僕らは記しておくことが大切です。

もしそういうストーリーが悪質なものだったり、税務署員さんの質問に感情的になってしまったりする場合は、新聞にお詫び広告を出すよう指示が出たり、自社のホームページにお詫びの一文を掲載するよう指示が出るケースを見たり聞いたりしたことがありますので気をつけたいですね。

酒税申告がままならない時などは当然追徴課税になりますから、酒蔵で勤務する上では気を引き締めて
おくべき点でしょう。

でもね、どんな不正や間違いを見逃さないほどの眼力を持ち合わせる税務署員さんにも傾向はあります。

その一つに、大抵の場合は夕方16時頃になればその日の調査は終わってくれるというのがあります。公務員ですからね。無駄な残業は正直したくないんでしょうね。

あとは、僕らもわからないことは正直にわからないと答えて良いということ。知らないことをあたかも知っている風に話しても、逆に墓穴を掘ることも多いですから、素直に返答すれば、税務署員さんの方で助け船を出してくれて記帳を修正してくれたりします。

そして、一度調査に来た担当者は、基本的に再度来ることはありません。税務署員さんには「異動」が伴いますので、税務調査同様、大体2~3年おきに他の税務署に移られます。

いずれにしましても、今回の調査は1日で無事に済みました。出品酒仕込みの真っ最中でバタバタしている中でしたが、税務署員さんのご協力あってスムーズに終了できたことを、この場を借りて感謝申し上げます。

酒造りに向いているタイプ。

今回は前回の内容の続編です。

日本酒造りの門を叩こうかどうかと悩んでいる方などには参考になるかもしれません。

お酒造りにどういう人が向いているのか?

結局は「やる気」であることは前回をブログで記したところですけど、もう少し具体的に話を進めてみたいと思います。

僕は22歳で日本酒業界に入ったのですが、その頃から「将来は杜氏になりたい!」とはっきりとした目標設定をしていました。最初に入社した蔵は造り手の人数が多くて、超ベテランや年下の先輩までバラエティーに富んだ年令構成となっていて、それはそれで組織に活気を感じられたものです。

もちろん他の人達は「ライバル」ですから、一蔵一人の杜氏の座に就くためには一体何人のライバル達を抜いていかなければならないかというような「算段」を自分なりによく考えていました。

結局何が言いたいかというと、自分は酒造りの世界でこうなりたい、という具体的な目標設定ができている人の方が、自分には何が足りなくて、誰に何を教えてもらったり、技をみせてもらう必要があるのかなど、行動の仕方がワンランク上になっていくものだと考えます。

実際に、僕も意識は結構高いところにあったのは事実ですし、勉強する時間を工面したり、この人に話を効いてみたいと想ったら、実際に会いに言ったりしたりしたものです。

ただ「酒造りをやってみたい」と思ってこの世界に入ってくる人は長続きしません。日本酒の製造現場に入った時点で何となく満足しているような人です。

仕事としての見返りを考えてみても、杜氏と蔵人を比べたら、絶対杜氏を目指さないと、蔵人はどうしても昔ながらの考えと言いますか、「修行の身」のような待遇になりがちです。プロ野球の世界では若手選手に「グラウンドには銭が落ちている」とハッパをかけて頑張って厳しい練習に耐えさせるなんて話を聞きますが、日本酒の製造現場でも、「酒蔵には銭が落ちている!」的な意識を持って取り組めば、自然とモチベーションが高く維持されやすくなり、寒さや眠さにも気持ちの面で耐え得るケースが増えてくるのではないかと思います。

日本酒の作業って、地味で単純なものが多いので、そういう作業に当たる場合でも、意味や意義をしっかり考えられて、丁寧で早い作業をクセにできるよう、普段からコツコツ積み重ねていけるような姿勢も大切なことと思います。

お客様の口に入るものを造る仕事ですから、誠実な仕事ぶりができないと、商品としてアラが出やすいでしょうし、技術の向上にも限界が出てきます。

もし日本酒業界で活躍したいと考えている方の参考になればと思い、ちょっと考えてみました。

今回はそんなところです。

酒蔵で働きたい人へ。

今夜は出品酒の麹造りの宿直なので、仕事の合間でこうしてブログを書いてみたいと思います。

最近はあまり思わなくなりましたが、この世界に入った駆け出しの頃は、土日祝日休みの職種や会社に勤めている方が羨ましかったりした時期がありまして、そういう日に朝、車を走らせて出勤する際に異様に道が空いていたりすると「あれ?」って微妙な心境に陥ったりすることもありました。

段々そういう勤務形態にも慣れてくれば、キャリアアップや自己実現を意識するようになり、ある意味割り切りもできるようになってきたように思います。

昨今の「働き方改革」で言われる、時短勤務や残業撲滅を強く意識する人は、日本酒業界に飛び込むことは間違ってもしない方が良いのではないかと思います。

酒造りという仕事を続けていくには、醸造というキーワードに常に探究心を忘れてはならないですし、微生物を扱うため、微生物の都合に自分の生活を合わせる柔軟性も重要です。更に、大抵のことでは動じない強い信念や覚悟も必要ですし、風邪やケガに強い体力も備わってないと、不慮の事態が頻繁に起こりうる酒造りを行う上でいちいち一喜一憂しているほど甘い世界ではないのです。

かといって、ど~んと大きく構えているだけではダメで、チームワークに敏感でなければならず、周囲がよく見えているかどうかのデリケートな部分も人間関係が密接に関係する職場環境においては切り離せない要素とも思うのです。

うちの蔵人にもたまに言うことですが、「作業は教えられる」けど「感覚は教えられない」とも思います。

お料理番組でよく「お塩少々」って表現ありますよね。少々っていわゆる「お好みで」ってことですが、勘やセンスのない人ってすぐ「少々って何gすか?」って聞いちゃう。きっちりした指示を言われた方が安心するのかもしれないですが、そういう感覚の人はまず日本酒製造の現場では苦労が多くなるでしょう。

「何回かき混ぜたらいいですか?」「何分置いておいてらいいですか?」など、現場では数知れずの数や量を限定的な分量で指示を求められることが多々あります。

そういう時の僕の答えの多くはこうです。

「だいたいで。」

きょとんとした蔵人の表情が楽しくもあるのですが、人がやる作業を間近で見たり、自分で勉強したり情報を少しでも取り入れるような意識を持ち合わせていたら、質問の仕方が少々変わってくるんじゃないかと思いますから、僕はそのように答えて「考えること」を促します。

仕事としてそういうやり取りが多くなる蔵人は、やっぱり長続きしないように思います。一見熱心に質問ができて探究心が強いように見えるのかもしれないですが、むしろ逆で、できる蔵人はサラッと何事もないようにその指示をイメージできて行動し、ひょうひょうとした雰囲気で次の指示に意識を向けていたり、やるべきことに手をつけ始めたり動きが早いという特徴があります。

もし、普段の生活の中で上記のことが思い当てる節があるような人は、日本酒業界はやめておいた方が無難です。

ただ、厳しいことばかりではなく、この仕事はセンスや醸造理論を努力で頭に入れておけば、学歴や資格は必要ないですし、性別、国籍ももちろん不問です。「やる気」があればある程度のレベルまでは登り詰めていけるでしょうし、実際に昔の杜氏さんはほとんど「中卒」ですから。

経験や勘がものをいう世界という部分は現在も大きいのです。

日本酒業界はいたって「人材不足」ですから、熱い志の持ち主のあなた!是非一度考えてみる価値はあると思いますよ。

っていうことで仕事に戻りま~す。