金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

最近の若いもん

僕、42歳の杜氏です。

日本酒の造り手の主力は30~40代がメインですから、丁度中堅どころって感じになるのでしょうか。

しかし、まだまだ昔気質の出稼ぎの親方で現役バリバリの方も多いので、そういうレジェンドからしたら息子や孫扱いされる程度なのかもしれません。

 

いずれにしても、今の蔵のメンバーの中では年齢は一番上になりますので、今日はうちの蔵人達のことを少々書いてみたいと思います。

 

僕が杜氏を任されるようになって12年になるんですけど、比較的若くして製造責任者になった時は蔵人達も若くて、20代のメンバーが多かったです。若いメンバーがいるとやっぱり製造現場には何となく活気があって、チャレンジする空気感が漂います。清酒製造の理論よりも体を動かして稼ぐ喜びをダイレクトに感じながら、「やりたいことを頑張る」という多少前のめりな姿勢で頑張ってくれていた印象です。

 

しかし、メンタル面ではまだまだ未熟な面もあって、気持ちの浮き沈みが多くてあからさまに態度にも出やすいということもしばしば見受けられます。うちの場合ですと、若い子は「熱しやすく冷めやすい」タイプが多かったように思います。

 

逆に年上の部下を持つ経験もさせてもらいました。

僕は基本的に年齢はあまり気にしないタイプでして、酒造りに関してしっかりとした自分の考えがありますので、あくまでも年齢ではなく一緒に頑張ってくれるのであれば仕事のパートナーとして割り切っています。

そんなこちらの考えを汲んでくれていたのかどうかわかりませんが、年上の部下とは比較的仕事はしやすかった印象があります。

 

30代中頃の部下はどうかというと、世の中のことも大体理解していて社会経験をつんでいることもあり、仕事としての酒造りを彼らなりによく考えているのがよくわかります。僕もおじさんになってきているので、お互いのいい意味での落ち着きが影響していたのかもしれません。

 

そして女性蔵人の部下はどうか。

正直色んな意味で気を使いました。酒造期は特に毎日顔を合わせるようになるので、彼女らも大変でしょうが、こちらも疲れていたりすると対応が雑になってしまったりということがあったり、蔵の環境の影響が大きいのですが、力仕事はあまり任せられなくて彼女達用にこちらであえて仕事を作ったり、今思うと無駄だったなあと思うこともいくつかありました。

ただね、女性ならではの細かい所に気が付いたり、思わぬアイデアを提案してくれたり、こちらも助けられたこともありました。

 

色々なタイプの部下達と酒造りをしてきましたし、今も4人の蔵人と仕事をしています。

酒造りに適正がありそうだなと感じるタイプは、基本的に「自分から酒造りを好きになる努力」が上手です。やっぱり作業は大変ですし、寒かったり眠かったり体力勝負が多い中で、酒造りを色んな方向から面白いネタを探しては調べたり聞いたり見に行ったりと言うような行動力があり、日々酒造りに関するアンテナを張り巡らせているようなタイプは自然と覚えが良いし、コミュニケーションを取るのも上手です。酒造りはチームワークですので、そういうタイプの人間は自然と輪の中で一目置かれる存在になりやすいです。

僕が関わってきた蔵人達は、会社との関係だったり色々ある中で平均勤続年数で言うと約3~4年てところでしょうか。

 

長いか短いかの判断はお任せしますが、酒造りの現場って若手にとってみたらそんなところだと思います。これは単純に根性がないとか、飽きっぽいとかだけじゃなくて、給料や職場環境とか人間関係とか色んな因果関係ももちろんあると思います。

 

僕も「若手」の時代に親方になりましたので、もし彼らの中で「杜氏になりたい」と思っていた者がいたとしても、酒蔵に杜氏は一人ですから、うちの蔵で杜氏を目指すとなれば僕を仕事で抜かないと杜氏の座にいつまでたっても就けないという厳しい現実もあるわけです。

 

そうすると運や巡りあわせみたいなものも勤続年数に関係するのかもしれないですね。

 

酒造りを日々好きで居続ける工夫ができて、真面目に仕事に向き合うだけでなく融通がきいたり要領もよく、物事にメリハリが付けられるタイプは上達が早いです。他の仕事でも言えることかもしれませんが「時間を早回しできる能力」とでも言いましょうか。

 

何でもそうですが、努力し続けることが一番の上達への近道なのでしょう。

 

辞めて行った蔵人達の中でも異業種で頑張っている者もいるし、たまに連絡をくれたりわざわざ蔵に会いに来てくれる者もいます。全員とそういう関係を続けられるわけではありませんが、やっぱりこちらもそんな時は嬉しいですね。

 

部下を持つとこちらもホントに勉強になります。

彼らと酒造りを通じて同じ時間を共有できるのは、やっぱり貴重な時間だと考えていますので、近すぎず離れすぎず、僕なりの距離感で良いお酒造りにつなげられたら最高じゃないかと思うのです。

酒は人が造るものですから。