金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

日本酒と酒粕と精米とヌカと。

本日の業務は酒粕のビニール詰め作業と言うのをメインで行いましたので、ちょっとそんなテーマでお送りしたいと思います。


日本酒を造るには、基本的に「精米」という工程が必須となります。

なぜなら、お米の外側には特に栄養分が豊富で、清酒酵母がそれを取り込みすぎると発酵が旺盛になりすぎたり、その栄養分のせいでお酒が「汚く」なったりするのです。
お酒が汚くなるってのを、もう少し解りやすく表現するなら『ボリュームを感じやすくなる」とでも言いましょうか、コクがあるとは違って幅があるけど心地良くない「野太さ」みたいな感じです。

よく「おいしいお米で日本酒を造れば、やっぱりおいしいお酒になるんでしょ?」って聞かれるんですがそれは違います!むしろ逆で、あんまりおいしくないお米で日本酒の仕込みを行った方が、より綺麗で上品な日本酒が仕上がりやすいのです。
お米の栄養分やおいしさは、日本酒では「雑味」に直結しますので、中々面白いところですよね。

そして、日本酒を造るには「搾り」の工程である上槽(じょうそう)を行う必要がありますが、この上槽という作業は、日本酒の液体部分と酒粕の固形部分を分離する作業とも言えるわけです。酒粕は日本酒造りの副産物ですが、この酒粕に注目すると、酒粕を魚や肉などに漬けこんだりして旨味を引き出そうという狙いならば、精米歩合の低い米でお酒を仕込んだモロミを搾った酒粕で漬け込んだ方が栄養分が豊富で、たんぱく分解酵素もたくさん含まれている為それぞれの素材の旨味が増幅しやすいです。

一方、高精白の精米歩合50%とか40%のお米で高級酒を造ろうとしたモロミを搾ってできた酒粕は、栄養分が少なく旨味を引き出そうにもちょっと物足りなくてあっさりしすぎるというように狙い通りにいかなくなってしまいます。

まとめると、食べて美味しいお米→お酒にとってよくない  食べて美味しくない米→お酒にとっておいしい   旨味を引き出す酒粕→定番酒、レギュラー酒用   旨味を引き出しにくい酒粕→高級酒、特定名称酒
と言う具合です。素材をいかに活かすかは、どう使うかをよく考えて用途にあった使い方をしないとフィットしにくいですよというお話です。

ちなみに、精米によってそぎ落とされたヌカですが、「ゴミ」になるところはなくて、肥料・飼料・米粉(米パンや米麺)・釣り餌などに使われます。お米は外側が一番脂分やたんぱく質が豊富で、中心部に行くにつれてクリアなデンプン質になっていきますので、日本酒造りはいかに「綺麗なデンプン質で造るか」というのが良いお酒を造る基本となるのです。

最後に補足ですが、最近ではあえてお米をあまり削らずに、80%や90%の精米歩合で仕込んだ商品を出してくる蔵がありますが、造りの中であまり米を溶かさないようにしたり、麹菌を回さないよう工夫したり、モロミの品温経過を低温経過をたどったりして、低精白でも「きれいなお酒」に仕上げましたというある意味製造テクニックの付加価値を込めた商品造りというのも中々おもしろい試みだと感じています。

口に含んでみて「良いお酒だな」と感じやすいお酒の造りをたどると、高精白で、酒粕を大目に出す造りをしたものが、「綺麗で上品で軽い酒」に仕上がりやすい傾向にあります。いずれにしても、日本酒は農業の派生商品で、伝統工芸品であるとするならば、より「贅沢な造り」を行うことで高級酒を造りだすことができると言えるでしょう。お米ってすごいパワーを秘めていますので、皆さんもお酒のラベルを注意して見てみて下さい。きっと精米歩合や米の種類で、どんな味わいかを想像するヒントにつながると思います。もちろん、スーパーなどで陳列されている酒粕も、色合いや手触りでどんなお酒のタイプを造るためのモロミだったのかわかるかもしれませんから、じっくり観察してみることをお勧めします。