酒造りバカになるな!
日本酒に関する日本酒製造現場からの情報発信ということで当ブログは運営させていただいているわけですが、今日は令和時代の未来の「杜氏像」「蔵人像」を模索してみたいと思います。
伝統産業の世界におりますと、昔ながらの慣習にとらわれすぎてしまうところがあったり、固定観念や先入観に影響を受けすぎてしまうところがあるのも事実です。何となく「前からこういう風だった」という空気に流されてしまうことも多いので、気を付けないといけないと思います。
その世界にどっぷりと浸かり、その世界で自分が生き抜いていけるように、「慣れる」のももちろん大切で、まずはそちらを優先しながら、俯瞰的にその業界を眺めてみるといった「余裕」が生まれるまでは、どんな世界でも一定期間の苦労や努力は必須であるとも考えてます。
話を日本酒業界に特化した形で進めますが、これまでの「造り手」は酒造りのみやっていれば良かったといって良いと思います。出稼ぎ型の杜氏集団の雇用形態は、雇う側の蔵元側にとっても都合がよくて、ある一定期間のみ決められた仕事の範疇をこなしさえよければ労使関係は良好でした。
この形は、現在の「社員杜氏」「社員蔵人」の雇用形態に変わっても、業務期間は通年になりましたが業務内容にさほど変化はありません。
確かに、人員削減でどこの酒蔵もスタッフにそれほど余裕があるというのも珍しいとは思いますので、製造以外の業務(ビン詰め、出荷、配達、営業)を兼務したり、臨機応変にお互いの分野を応援し合う形を取っている所も少なくないんじゃないでしょうか?
酒蔵で働く限りは、その道の「プロ」として日々それぞれが努力を積み重ねていくことは大切なことです。造り手であれば製造に関すること、出荷に関する業務に関わっている人ならその分野のことなど、自分の「仕事」に関することは結構みなさん一生懸命勉強するんじゃないかと思うのです。
しかし、飲酒人口の減少が明白な今となっては、これからの日本酒業界が更に厳しくなっていくのは当然で、これまでの「決められたことだけ」の仕事の勉強や視点だけでは通用しなくなると思います。
日本酒製造に関する情報も、昔と違ってネットなどで簡単に知ることができますし、造り手同士の横のつながりも随分風通しが良くなって、お互いの情報交換は円滑な時代になりました。
結局のところ、全ての業務は「お金」に通じていますから、どうしたら実入りがより多くなるのか?を各セクションで働く人達が意識して関われたら、今まで見えていなかったことが見えてきたり、別々のセクション同士の意見交換や新たな連係など、「気付き」のきっかけになることも多いような気がします。
いくらのコストでいくらで売れて、結局手元にいくら残ったのか?
酒蔵みたいな比較的家族経営を敷いている会社で働く従事員の方々で、自分が働く会社の「年商」を知らない人、意外と多いんじゃないでしょうか?
会社側の方も、ただ「頑張れ」って言うんじゃなくて、「どう頑張るか」を伝えるべきで、その辺が曖昧の会社って未来あるの?って疑問です。
経理に関わる社員で「簿記」を知らないで税理士さんに言われるがままの人はそのうち「クラウド会計」にとって変わられてしまうでしょうし、仕込みに使う酒米の値段を知らずに「金賞、金賞」って意気込む杜氏さんはやっぱり考えものだと僕は思うのです。
酒蔵で働く人達がちょろっと「お金の意識」を持つことと、多くの蔵元さんが少しでも「財務事情」を元に改善策を提案できると、業界全体が更に良くなっていくことにつながるのではないでしょうか?
「経営視点」が令和の酒蔵が生き残る一つのヒントです。売上の良い酒蔵は何で良かったのかをみんなで議論すべきです。売上の良くない酒蔵は、あんまり諸事情を公開したくない気持ちは察しますが、何かを変えなくては現状に変化はありませんから、従業員の意見も聞いてみるのも良いでしょう。
昔ながらの伝統産業は、そういう暖かさというか、「ファミリー」であると感じられる空気があるかないかで、社員のモチベーションが変わるのです。
厳しい時代に突入していくわけですから、なあなあは良くないですが、ちょいとみんなの意識が高くなるだけで、行動が変わってくるのではないでしょうか?