金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

酒母(しゅぼ)の種類について

仕事納めでいよいよ年越しモードになっている方も多いことと思います。

 

酒蔵も働き方改革の影響を受けて、年末年始を「なるべく」通常の会社員形態のシフトに近づけるよう努力が必要ですが、その中で酵母を培養する工程で「酒母」(しゅぼ)または酛(もと)と呼ぶものがあるのですが、酒母工程を効率よく簡略化していけば酒の品質に影響することなく少ない人数で造りを行う蔵なども省力化につながって年末年始の負担軽減につながるのではと思いますので話を進めてみたいと思います。

 

酒母の重要事項は「強くて多い」清酒酵母をいかに育てられるか?です。

一番スタンダードな酒母のタイプは「普通速醸酒母」と呼ばれるもの。

酒母日数を12~15日程度かけて暖気(だき)と呼ぶ20ℓくらいお湯が入る容器をモロミに入れて数日に渡って加温する作業が大変です。

多分ほとんどの蔵で、ほとんどのタイプで採用しているスタイルだと思います。

 

他には高温糖化酒母と呼ばれるもの。普通速醸酒母と比べてやや高温の品温経過をたどって日数も7日くらいで仕上がります。

 

生酛(きもと)や山廃(やまはい)。天然の乳酸菌から乳酸醸造を行ってから酵母を育てる工程に入るスタイルですが、手間暇と高度な経験が要求されて難易度は高いです。

 

中温速醸酒母(ちゅうおんそくじょうしゅぼ)という普通速醸酒母と高温糖化酒母の間を取るスタイルも結構使われています。

 

以上いくつか例を挙げましたが、酒母のタイプはどれが一番と言うことはなくて、杜氏さんや酒母係りさんがやりやすい手法で安全に狙った清酒酵母が育成できれば良いわけです。酒母が占める仕込みタンク1本あたりの割合は6~7%しかないですから、「強くて多い」清酒酵母さえ実現できていれば、それほどお酒としての味わいに強い影響を及ぼすということは少ないと考えます。

 

僕が普段酒母工程で考えていることは、造るお酒のタイプやその時の蔵内の状況を考えて「酒母のタイプを変える」ということです。

 

それは、造りにメリハリを加えることになりますし、蔵人の必要以上の負荷を軽減できることにもつながります。それほど付加価値の高くないお酒を造る場合は、普通速醸酒母などは日数がかかって土日休みなどいつになっても実現できません。

一方、生酛や大吟醸を造る場合は、ある程度のレベルの高い製造テクニックを盛り込むことも付加価値を高める上では大切なことになりますので、そういう時は集中力を高めて心して挑むことも大事でしょう。

いずれにしましても、その時々で酒母形態を変えて行けば、結局自分を守ることにもつながるわけです。

 

そんなこんなで前置きがすごく長くなりましたが、僕は「アンプル酒母」という酒母手法がもっと全国の蔵人さんや杜氏さんに知ってもらえたら皆さんの負担軽減につながるのではないかと考えるのでお薦めしたいと思います。

 

アンプル酒母は、蒸し米を使わないので麹を造っておけば急きょ仕込み計画を変更せざるを得ない事態が起きた時でも気軽に対応が可能です。仕込み配合は、総米1000kgに対して、麹20kg汲水70ℓで僕はやっています。汲水の半分を取っておいて、麹を55℃で糖化します。2時間ほどで甘酒ができますから、残しておいた汲水を入れて30度前後のモロミになるようにして、乳酸と酵母を入れれば仕込み終了。24時間酵母の培養にあてて、3日目で添仕込みができる状態になりますよ。

 

アンプル酒母を上手に仕込計画の中で盛り込んでいけば、作業内容も簡単ですから若手の蔵人にもすぐ覚えてもらえます。

 

ちなみに僕は、レギュラーの純米酒純米吟醸酒は全てアンプル酒母を採用しています。更にイベント用のお酒や一部の季節商品にもアンプル酒母を積極的に採用しています。

 

こんなに簡単で楽をしているような作業内容でお酒の品質は問題ないの?って心配になる方もいらっしゃると思いますが、「全く問題ない」ですし、むしろどんどん採用して、楽をできる所は楽をして、空いた時間や意識を新たな仕事を生み出す時間に当てたり、今までやれなかったことをやる時間に当てた方が効率がよく生産性の向上につながると思います。

 

よくね、お正月休みは全体の作業はないですが、酒母だけ育てておいて休み明けに添仕込みができるように酒母係りだけはお正月にチェックに蔵へ出向かなければならないといったケースがあるんですけど、そういうの無駄でしょ?その子もかわいそうです。

12日かけないと酒母として成立しないものと3日で成立するものがあって、品質に特別問題がないならばやらなきゃ損てなもんです。

 

最近は「女性蔵人」や「女性杜氏」も増えてきています。

体に負担の多い「暖気入れ」作業を省けるのは嬉しいですよね。

プライベートの時間を増やせる手法なので、是非一考の価値ありと思います。