金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

税務調査がありました。

本日のテーマをご覧になった方は、映画マルサの女を想像した人も多いのではないかと思いますが、あれは脱税逃れを主な目的とした法人に税務署の「ガサ」が入る場面を興味深く映画化したものでした。一般的に酒蔵を対象とした税務調査なるものは、法人税の追加徴収を目的としたものではなくて、通常業務の中での「酒税法」に基づく業務遂行がそれに則ったものになっているのか、税務署の認識と酒蔵側の認識に差異がないかなどを主に確認し合うものでして、大体2~3年に一度の割合で税務署の担当者が酒蔵に出向いて、1~3日程度の時間を要して調査するといった内容となるのです。

調査内容は、業務遂行における「記帳」という義務が僕ら蔵人にはあるのですが、モロミや酒母の製造帳簿や使用米の用途を確認するための受払帳簿、更にはビン詰め帳簿だったり、調合や割り水の行為に関係するタンク移動帳簿や割り水帳簿などを全てチェックされます。

あとは、酒屋さんからの返品に関係する戻入に関する記帳だったり、現在の商品別在庫数量なんかも1本の違いも厳しくチェックを受けます。

ビンが割れてしまってお酒が流れてしまった際の破損処理はちゃんと成されているか、試飲で処理したものがちゃんと課税扱いになっているかなど、事細かにチェックは淡々と進んでいくのです。

チェックされるのってやっぱりあんまり気持ちの良いものではないですよ。

僕なんかはある程度ベテランの域にあり、税務調査自体も製造責任者として3~4回の経験がありますが、毎回多少の緊張感を味わいながら、無事に事が済んでくれたらという淡い希望を持ち合わせて望んでいます。

税務署の職員さんも、確認作業はもうお手のものでして、その処理のスピード感たるや感心するくらい素晴らしいのですが、「こりゃごまかそうにもごまかせないや」と内心やっぱり仕事は正直に向き合うに限ると背筋の伸びる感覚を覚えます。

もし間違いがあった場合や微妙な記帳された数字の誤差などがある場合は、僕らはその質問に真摯に答えなければならない義務がありまして、その間違いが故意であったのか否か、無意識のうちにやってしまったことなのかどうかを釈明する必要があります。

税務署員さん達の心理としましては、もちろん不正があれば送検できる権利を持ち合わせているわけですが、税務調査は決してガサ入れはなく、事前に日程の相談の電話をくれて、調査内容も大体こんな内容です。といわば試験に出るところを事前に教えて頂けるような「気遣い」を見せてくれますので、こちらも仕事として参りますから、その辺しっかりお願いしますよ、といったところではないでしょうか。

酒蔵のほとんどが中小零細がほとんどですし、やや厳しいおとがめを施せば、そのまま蔵が吹っ飛んでしまう可能性もあるわけですから、誠実な対応さえ心がけていれば、「生かして殺さず」としてくれるケースが少なくない気がしています。

日本酒は水物ですので、きっちり合わないことが「普通」ですから、税務署員さんもその辺はよくわかっているので、記帳内容もしっかりした「ストーリー」を僕らは記しておくことが大切です。

もしそういうストーリーが悪質なものだったり、税務署員さんの質問に感情的になってしまったりする場合は、新聞にお詫び広告を出すよう指示が出たり、自社のホームページにお詫びの一文を掲載するよう指示が出るケースを見たり聞いたりしたことがありますので気をつけたいですね。

酒税申告がままならない時などは当然追徴課税になりますから、酒蔵で勤務する上では気を引き締めて
おくべき点でしょう。

でもね、どんな不正や間違いを見逃さないほどの眼力を持ち合わせる税務署員さんにも傾向はあります。

その一つに、大抵の場合は夕方16時頃になればその日の調査は終わってくれるというのがあります。公務員ですからね。無駄な残業は正直したくないんでしょうね。

あとは、僕らもわからないことは正直にわからないと答えて良いということ。知らないことをあたかも知っている風に話しても、逆に墓穴を掘ることも多いですから、素直に返答すれば、税務署員さんの方で助け船を出してくれて記帳を修正してくれたりします。

そして、一度調査に来た担当者は、基本的に再度来ることはありません。税務署員さんには「異動」が伴いますので、税務調査同様、大体2~3年おきに他の税務署に移られます。

いずれにしましても、今回の調査は1日で無事に済みました。出品酒仕込みの真っ最中でバタバタしている中でしたが、税務署員さんのご協力あってスムーズに終了できたことを、この場を借りて感謝申し上げます。