金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

杜氏と宿直

今夜は麹造りのため蔵に泊まりです。

酒造りという仕事はどうしても宿直が伴いますので、各蔵ごとにそれなりの「宿舎」も整ってます。

僕はこれまで4つの酒蔵で酒造経験がありますが、今の蔵の宿舎は、今風でキレイな和室に仮眠できるようになっていて、ユニットバスでお風呂が入れて普通の「家」と同様の雰囲気です。当然居心地も良いですよ。

最初に勤めた蔵も全面フローリングで蔵人一人に一部屋付けてくれて、ロフトもついて良かったです。

一つ前の蔵は一転劣悪な環境でして、古い「納屋」みたいな部屋で、畳は擦りきれていてボロボロ、与えられた布団は臭くてヨレヨレでシミだらけ、噂には蔵元の若かりし頃のお古が宿直用に回ってきたとかこないとか・・・当然、お風呂やらシャワールームなどもなかったです。

やっぱり人間単純なもんで、少しでも良い環境だなと感じられれば、「ちょっと頑張らなきゃ」と思うし、何だこりゃって環境だと「やべえな」って思うことが多くなるように思います。

最近だと若手の造り手がほとんどですから、昔みたいな雑魚寝や相部屋というのは少なくなり、個室が基本になって最低限のプライバシーは保たれている蔵が多いようです。

宿直の人数ですが、うちの場合だと製造規模がそれほど多くないため、宿直が必要な日につき一人を基本にしています。主に作業内容は、麹の番でして、他にはその日のタイミングによってお酒の搾りのチェックやモロミのチェックが2~3時間ごとに入るといった具合です。

あくまでもうちのケースですが、宿直仕事は必ずやずっと仕事をしているわけではなく、必要に応じてそれぞれのチェック項目を一定の時間にチェックを行うという具合ですので、拘束時間には違いないですが、仮眠の時間は以外と多く保たれているんじゃないかなと思っております。

うちの蔵での宿直を任せる蔵人は、やはり一人でもある程度判断力や決断力を発揮できる能力を要求されますので、必然的にベテランの人間が執り行うようになっています。

蔵の雰囲気は、昼の賑やかさとはガラッと変わり、静けさの中に機械音が僅かに鳴り響きながら、ややお化け屋敷的な感じも否めないというところでしょうか。

宿直の大変なところは、やはり眠さとの戦いです。どうしても宿直が頻繁になる時期が続けば慢性的な睡眠不足になりがちになりますし、疲労がぬけないでダルさが続きがちに。更には、寒い季節ですと起きるのが大変です。布団から出て、麹室まで行くのに一度外を歩かないとならないので、体が冷えてしまったり、室内との温度差で風邪をひきやすくなったり。

体力勝負ですから、要領よくなるべくチェックに向かう回数は、必要最小限に留められるように、場数を踏んで仕事に慣れることは、結局自分に対しての負担軽減につながるのです。

僕も若手の頃、よく色んな先輩と宿直を経験させてもらいましたけど、決断力や優柔不断な人はチェックに行く回数は平均的に多くなりますし、そういう先輩と一緒の夜はこちらも疲労度に対して覚悟しないといけません。

一方、できる先輩との夜は安心です。バタバタしないですし、判断も早いので指示を受ける側も楽です。

そういう若手の頃の経験は、今となれば「こうあるべき姿」として後輩達へ接する時の良い教訓となっています。

今夜は山田錦大吟醸用の麹造りです。
高品質な日本酒造りの第一歩にしたいですね。