金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

そろそろ通常モード?

世間は6日が仕事始めのところが多いようですね。

うちの蔵はいよいよ明日から「仕事始め」!!!

2020年も美味しい日本酒が造れますよう、頑張ります!

 

このブログも、少しでも造り手が酒蔵の情報発信をしたら皆さんに「日本酒を身近に」感じてもらえたら良いんじゃないかと考えてスタートしておりますので、また多忙な日々が始まりますが、本業の合間をぬって「金賞杜氏の日本酒情報局」も頑張っていきたいと思いますのでどうぞ宜しくお願い致します。

 

今月は山田錦大吟醸の仕込みと待ちに待った「全国新酒鑑評会」に向けた出品酒を仕込みます。緊張しまくりのピリピリ感満載の日々になるんですが、まずは市販酒をしっかり仕上げてからという感じですね。

 

出品酒の造りは緊張していても、蔵人達にはあんまりそういうのは出さないようにすると思います。作業の中で、僕の表情や態度でみんな自然とそういうのは感じ取るだろうと察していますので、とにかく思い切ってやろうということを伝えたいと思います。

 

この出品酒の仕込は全国各蔵が同じようにこの時期に造りに入ります。大手メーカーも中小零細酒蔵も出品できるのは1つのみ。牛肉で例えるなら「出品酒のシャトーブリアン」として、最高のたった5Lを採取する究極の作業になるわけです。

 

例え金賞を逃したとしても、チャレンジした内容は蔵の製造ノウハウとして確実に残りますし、チームとしての結束もこれまで以上に強くなるもの。そういう意味では、挑戦して損はありません。

 

是非、イメージ通りの作業がノーミスでいけたら、また昨年同様の結果が得られると信じていますので、皆様からの応援お待ちしております。

 

出品酒を搾り終わるのは2月20日頃を予定しています。

もうその頃は遡上してきたヨロヨロの鮭状態になっているでしょう。

ベストを尽くして、自分の納得できる造りにします。

 

 

お正月。酒飲んでますか?

蔵全体の仕事はお正月のため3日までお休みとなっております。しかし、連日当ブログで申し上げている通り、杜氏の僕に「完全休」はありません。

 

モロミのチェック、酒母の管理、機械設備の電源チェック、FAX・メールの問い合わせなど、ずっと蔵に常駐するわけじゃありませんが、朝と夕方の2回ほど蔵へ車を走らせます。

いやあ、空いてますね。道路。

そろそろ帰省帰りのラッシュになるのでしょうけど、仕事に行く身の僕としては「お正月大歓迎」です。

 

日本酒が一番うまい時期はやっぱり正月でしょうね。

僕も夕方のチェックが終わって帰ってきた後、こうしてブログを書きながら「飲んでます」。今飲んでるのは自分たちの酒です。色々と諸事情があるため、僕が造らせてもらっているブランド名を「今は」出せませんが、造った過程を知っているからこそ、また格別の味わいを楽しんでおります。これも造り手の特権の一つなのでしょう。

 

これまでうちは4名のスタッフで回してきたんですけど、夏に2人が諸事情で退職しまして、9月からの新シーズンは新たに3名補充して何とか最も繁忙期の12月を乗り切ったところです。

 

まだまだチームとしては固まりきってはいないですが、みんな頑張ってくれていますし、お酒造りが解らないながらも自分たちなりに一日一つでも何かを掴みたいという姿勢は見せてくれているので、こちらもとても頼もしく感じているところです。

 

僕はこれまで20年の酒造り歴になりますが、実は櫂棒(かいぼう)というモロミを撹拌する長い棒を持たせてもらうまで約3年かかりました。そう、テレビでよく見るあのシーンですよ!タンクをゆっくりかき混ぜている様子を見たことあるでしょ?

僕が最初に入った蔵は若手が多く、当時はまだ地方から出稼ぎに来ている蔵人衆もいらっしゃったので、酒造りに関する「コアな部分」を触れるのに「順番待ち」をしなければなりませんでした。

 

当時の僕は今以上に酒造りに真っ直ぐでしたから、そういう徒弟制度的な慣習が嫌でたまりませんでしたし、ある意味悔しくもありました。そういった反骨心みたいなものが、その後の頑張りにつながったのかもしれませんが、今の蔵の事情を考えたら、3年も仕事を取り上げて「見て覚えてろ」なんて余裕は会社側にありませんから、この夏入ってきた3人には入社してきた「その日に」モロミをかき混ぜさせました。

 

僕は酒造りは自動車の運転によく似たものと思っていまして、見ているだけでは上手くなれないし、いかに場数を踏むかで上達のスピードが変わります。更には、免許をせっかく取得してもペーパードライバーだと実力は現状維持か落ちていってしまいます。

 

今の世の中に合わせて、今の人達に合わせた指導方法で臨機応変な対応を考えていく必要があるのではと考えているのです。

この夏入った3人のうち2人は未経験ですが、興味だけで入社してきて、酒をタンク1本仕込み終わったところで「こんなに酒造りって大変なんですね」って言われました。

 

僕は未経験の人間には、より酒造りの「厳しさ」や「苦労」を身に染みて感じてもらいたいというのがあるので、櫂棒以外にも触れられる範囲でどんどん仕事を経験させています。

 

僕らは酒造りの「プロ」ですし、興味本位の「酒造り体験」的な気分を早いうちに取り払ってやるという狙いもあるのです。初心者に仕事をやらせるのは、こちらも労力を要しますし、時間もかかります。もし狙った通りにその工程がいかなければ責任はこちらにきますので、はっきりいって大変ですが、彼らには半年後や1年後、更には3年先を期待していますから、今夜いただいている純米の生酒を一緒に商品化できたのはやっぱりこれはこれで嬉しいのです。

 

まだまだ、造りは続きますので色んな事があると思いますが、人造りと酒造りに邁進したいと思います。

 

 

杜氏のお正月

皆さんあけましておめでとうございます。

本年も是非「金賞杜氏の日本酒情報局」を宜しくお願い申し上げます。

 

元旦ですが世の中の社会人が全員一斉に休日になるような単純化した世の中ではありませんから、時短やら振替休日やらでそれぞれのお正月を過ごしたら良いのではと思っています。

 

コンビニのお正月営業の問題が取り上げられているのを見ましたが、売上や信用を落としてでも休みたいと思うなら休めばいいし、今まで通り営業したいと思えばお正月も営業したらいいし、「大人なんだから自分で考えたらよくね」って感じです。そして周囲もその人が決めたことをちゃんと尊重してあげること。それで世の中うまく回れば何てことない話題だと思いますよ。

 

本部の意向がとか、契約がどうとか、色々あるんでしょうけど、裁量権とか自分の頭で考えるとかいう基本的な部分が抜けてしまっていますよね。裏を返せば、「勝手に決めるな」「わがままは許さない」ってこと。

 

恐っ!

 

お正月でもそれ以外でも、コンビニのオーナーさん、休みたい日があるならいつでも休んでいいですよ。(消費者の声)

 

前置きが長~くなりましたが、僕は元旦から出社させていただきました。

別にエライとかブラックとかそういうのじゃなくて、毎年のことって感じだし、そもそも年間の製造計画を淡々とこなしていかないとってのが当蔵での杜氏としての責務だと考えますので。

酵母を培養する工程の「酒母」は育てないとならないし、季節商品の純米酒純米吟醸酒のモロミは元気に発酵中です。タンクの電源は落ちていないか、蔵の安全は大丈夫なのか、緊急のFAXやメールの問い合わせは来ていないか、世の中が動く限り、そして日本酒の製造をスタートしてしまったら、曜日や行事は関係ないんですよ!

 

結局「仕事」ですから。

 

自分は何で生かされているのか?家族の生活を守るのには何が資本となっているのか?そう考えればやるべきことは自ずとわかりますでしょ?

 

日本酒業界とはそういうものです!とまでは言いきりませんが、当蔵の事情としてお正月休み中の蔵の管理業務は「杜氏の責任」です。

 

うちはこれまでこのブログで記してきた通り、1/4が仕事始めですから、蔵人達は通常業務には出てくる必要はありません。ただ「生き物」を扱っている限り、生き物の都合で動かないと「良い酒」はできません。

 

製造責任者という職に居続ける限り、その職務を果たさないと蔵人もついてきてくれないんですよ。別にパフォーマンスじゃないんですけど・・・

 

でもね、杜氏のお正月は至って質素なもんです。

 

家族は妻の実家に帰省して「じいじ、ばあば」と水入らずの時間を楽しんでいますし、僕は帰宅すれば自炊して静かなリビングでこうしてブログを発信するというようなお正月になるわけですから。

 

皆さんは2020をどのようなスタートでお過ごしですか?

今年もお互い頑張りましょうね!

 

 

 

2019大晦日、そして2020へ

いよいよ年末も押し迫って参りました。

本日は酒造りの通常業務を終了させた後、実家で親戚一同と2019年最後の一時を楽しんで参りました。

きっと世の中の多くの皆さんが思い思いの時間をお過ごしのことと思います。

 

年末だった言うのに「レバノンに逃げたゴーン」

晦日なのに「フジモンユッキーナ離婚」

何となくこのニュースを聞いて「パワフルだなあ」と変に関心してしまいましたよ。

 

今年を振り返ると、酒造りの仕事を見たら「金賞」は獲得できたし、その他3つの鑑評会でもそれぞれ表彰をしていただきましたし、9月決算時には当蔵の過去最高売上高も達成できました。そして、今年の新シーズンも、色々ありますが何とかこうして酒造りが続けられている現状としたら、僕は大満足の2019年が送れたんじゃないかと思っています。

 

そして、秋からは新しいチャレンジとして当ブログを開設。

 

来年に向けて何か世の中に日本酒関連の有益情報を更に発信していこうと決意しています。

 

先日、プライベートで今月唯一の「忘年会」に行きましたが、たまたまなのか、たまたまであってもらいたいなと感じたことは、お客さんの中に20代と思われる若い方々がいらっしゃらなかったこと。

総勢40人くらいのお客さんがほとんど満席状態で元気に酒を楽しんでいるんですけど、僕は直感的に「若者の酒離れ」を感じていました。

 

きっと若者は、若者らしいスタイルで酒を楽しむか、酒に変わる何かに時間とお金を費やしているのかもと。行ったお店も決して「おじさん」をターゲットにしているお店ではないですからね。

 

当蔵の10月の増税後の売上が下がっております、というお話は何度か前のブログにて語らせてもらいましたが、ついに日本酒が一番出荷される12月も前年度比-10%程度落ち込みました。これはあくまでも当蔵の現状でして、日本酒業界や酒類業界全体での数字ではありませんが、出荷業務は明らかにこれまでとは勢いが足りないと感じながら作業を行っていました。

 

売上成績は下がったり、酒場の雰囲気に変化を感じたり、贅沢品である「日本酒」を取り巻く周辺環境は、もしかしたら2020年の更なる変化の前兆になるのかもと、ちょっと気持ちを引き締めて行かなければと考えているところです。

 

でもね、好きな人はやっぱり飲みますしね。

飲んでる人見ていると楽しいし、元気だし、魅力的ですよ。

 

是非、飲む人が少しでも「日本酒を飲む人」として少しでも日本酒を身近に感じていただけるようになってもらえると造り手としては幸いです。

実際、僕自身もその忘年会ではビール、ハイボール芋焼酎、サワー系と日本酒以外のアルコール飲料もたらふく楽しませてもらいました。

 

酒飲む人ならわかると思うんですが、飲んでる時ってめっちゃ気持ちいいし、最高に楽しいですよね。でも、その夜から翌日の午前中くらいまでは逆に体や頭が重くてだるいだけ。でも、飲んだ翌日の夜くらいになれば、アルコールが活力に変わってきているような気がしてくるんですよ。

 

是非、飲んで語らうコミュニケーションの楽しさも「若い人」にはもう一度再認識してもらえたらと思います。

 

もうすぐ日付が変わりますが、明日もモロミの管理はあります。

僕らの仕事は麹や酵母の都合で成り立っていますから、5時30分に起床できるように、これにて休ませていただこうと思います。

 

読者の皆様、今年もお世話になりました。

是非、よいお年をお迎え下さい。

 

 

今夜は忘年会。

うちの蔵は、31日の大晦日まで営業で、年明け4日が仕事始めというスケジュールです。

僕は普段、車で通勤をしているんですが、今朝なんて日曜日ってことに加えて世の中いよいよお正月休みに入っている方々が増えているようでして、道はガラガラ。通常より早く会社に到着してしまいました。

まだまだ蔵から出荷されるお酒は勢いが収まる気配はありませんで、12月の酒蔵としては正に「かきいれ時」の様相です。

そんな中で、今夜はプライベートで唯一予定していた「忘年会」に行ってきます。昔からの知り合いの数人で集まるのは、毎年の恒例になっていまして、中には他の蔵で杜氏を務めている者もいます。

大人になるにつれて各自色々生活状況にも変化しますし、スケジュールを合わせるだけでも一苦労ですが、気兼ねなく過ごせる仲間や時間は、かけがえのない貴重な一時に違いないです。

最近は僕自身も日々忙しくさせてもらってますから、酒場の状況なども久しぶりにどんな模様か興味があります。

他のテーブルから、うちの酒を誉めていただく声が聞こえる時などは、素直に嬉しいですよ。

「あ、それ僕の作品です」みたいな。

たまに店長さんなんかが気を利かせてくれて、お客さんに紹介してくれたりすることもあるんですけど、嬉しい半面で「ちゃんとやらなきゃな」って気を引き締め直す心境にもなるのです。

今夜はどんな夜になるのでしょうか?

皆さんも是非素敵な年末をお過ごし下さい。

酒母(しゅぼ)の種類について

仕事納めでいよいよ年越しモードになっている方も多いことと思います。

 

酒蔵も働き方改革の影響を受けて、年末年始を「なるべく」通常の会社員形態のシフトに近づけるよう努力が必要ですが、その中で酵母を培養する工程で「酒母」(しゅぼ)または酛(もと)と呼ぶものがあるのですが、酒母工程を効率よく簡略化していけば酒の品質に影響することなく少ない人数で造りを行う蔵なども省力化につながって年末年始の負担軽減につながるのではと思いますので話を進めてみたいと思います。

 

酒母の重要事項は「強くて多い」清酒酵母をいかに育てられるか?です。

一番スタンダードな酒母のタイプは「普通速醸酒母」と呼ばれるもの。

酒母日数を12~15日程度かけて暖気(だき)と呼ぶ20ℓくらいお湯が入る容器をモロミに入れて数日に渡って加温する作業が大変です。

多分ほとんどの蔵で、ほとんどのタイプで採用しているスタイルだと思います。

 

他には高温糖化酒母と呼ばれるもの。普通速醸酒母と比べてやや高温の品温経過をたどって日数も7日くらいで仕上がります。

 

生酛(きもと)や山廃(やまはい)。天然の乳酸菌から乳酸醸造を行ってから酵母を育てる工程に入るスタイルですが、手間暇と高度な経験が要求されて難易度は高いです。

 

中温速醸酒母(ちゅうおんそくじょうしゅぼ)という普通速醸酒母と高温糖化酒母の間を取るスタイルも結構使われています。

 

以上いくつか例を挙げましたが、酒母のタイプはどれが一番と言うことはなくて、杜氏さんや酒母係りさんがやりやすい手法で安全に狙った清酒酵母が育成できれば良いわけです。酒母が占める仕込みタンク1本あたりの割合は6~7%しかないですから、「強くて多い」清酒酵母さえ実現できていれば、それほどお酒としての味わいに強い影響を及ぼすということは少ないと考えます。

 

僕が普段酒母工程で考えていることは、造るお酒のタイプやその時の蔵内の状況を考えて「酒母のタイプを変える」ということです。

 

それは、造りにメリハリを加えることになりますし、蔵人の必要以上の負荷を軽減できることにもつながります。それほど付加価値の高くないお酒を造る場合は、普通速醸酒母などは日数がかかって土日休みなどいつになっても実現できません。

一方、生酛や大吟醸を造る場合は、ある程度のレベルの高い製造テクニックを盛り込むことも付加価値を高める上では大切なことになりますので、そういう時は集中力を高めて心して挑むことも大事でしょう。

いずれにしましても、その時々で酒母形態を変えて行けば、結局自分を守ることにもつながるわけです。

 

そんなこんなで前置きがすごく長くなりましたが、僕は「アンプル酒母」という酒母手法がもっと全国の蔵人さんや杜氏さんに知ってもらえたら皆さんの負担軽減につながるのではないかと考えるのでお薦めしたいと思います。

 

アンプル酒母は、蒸し米を使わないので麹を造っておけば急きょ仕込み計画を変更せざるを得ない事態が起きた時でも気軽に対応が可能です。仕込み配合は、総米1000kgに対して、麹20kg汲水70ℓで僕はやっています。汲水の半分を取っておいて、麹を55℃で糖化します。2時間ほどで甘酒ができますから、残しておいた汲水を入れて30度前後のモロミになるようにして、乳酸と酵母を入れれば仕込み終了。24時間酵母の培養にあてて、3日目で添仕込みができる状態になりますよ。

 

アンプル酒母を上手に仕込計画の中で盛り込んでいけば、作業内容も簡単ですから若手の蔵人にもすぐ覚えてもらえます。

 

ちなみに僕は、レギュラーの純米酒純米吟醸酒は全てアンプル酒母を採用しています。更にイベント用のお酒や一部の季節商品にもアンプル酒母を積極的に採用しています。

 

こんなに簡単で楽をしているような作業内容でお酒の品質は問題ないの?って心配になる方もいらっしゃると思いますが、「全く問題ない」ですし、むしろどんどん採用して、楽をできる所は楽をして、空いた時間や意識を新たな仕事を生み出す時間に当てたり、今までやれなかったことをやる時間に当てた方が効率がよく生産性の向上につながると思います。

 

よくね、お正月休みは全体の作業はないですが、酒母だけ育てておいて休み明けに添仕込みができるように酒母係りだけはお正月にチェックに蔵へ出向かなければならないといったケースがあるんですけど、そういうの無駄でしょ?その子もかわいそうです。

12日かけないと酒母として成立しないものと3日で成立するものがあって、品質に特別問題がないならばやらなきゃ損てなもんです。

 

最近は「女性蔵人」や「女性杜氏」も増えてきています。

体に負担の多い「暖気入れ」作業を省けるのは嬉しいですよね。

プライベートの時間を増やせる手法なので、是非一考の価値ありと思います。

 

 

杜氏と宿直

今夜は麹造りのため蔵に泊まりです。

酒造りという仕事はどうしても宿直が伴いますので、各蔵ごとにそれなりの「宿舎」も整ってます。

僕はこれまで4つの酒蔵で酒造経験がありますが、今の蔵の宿舎は、今風でキレイな和室に仮眠できるようになっていて、ユニットバスでお風呂が入れて普通の「家」と同様の雰囲気です。当然居心地も良いですよ。

最初に勤めた蔵も全面フローリングで蔵人一人に一部屋付けてくれて、ロフトもついて良かったです。

一つ前の蔵は一転劣悪な環境でして、古い「納屋」みたいな部屋で、畳は擦りきれていてボロボロ、与えられた布団は臭くてヨレヨレでシミだらけ、噂には蔵元の若かりし頃のお古が宿直用に回ってきたとかこないとか・・・当然、お風呂やらシャワールームなどもなかったです。

やっぱり人間単純なもんで、少しでも良い環境だなと感じられれば、「ちょっと頑張らなきゃ」と思うし、何だこりゃって環境だと「やべえな」って思うことが多くなるように思います。

最近だと若手の造り手がほとんどですから、昔みたいな雑魚寝や相部屋というのは少なくなり、個室が基本になって最低限のプライバシーは保たれている蔵が多いようです。

宿直の人数ですが、うちの場合だと製造規模がそれほど多くないため、宿直が必要な日につき一人を基本にしています。主に作業内容は、麹の番でして、他にはその日のタイミングによってお酒の搾りのチェックやモロミのチェックが2~3時間ごとに入るといった具合です。

あくまでもうちのケースですが、宿直仕事は必ずやずっと仕事をしているわけではなく、必要に応じてそれぞれのチェック項目を一定の時間にチェックを行うという具合ですので、拘束時間には違いないですが、仮眠の時間は以外と多く保たれているんじゃないかなと思っております。

うちの蔵での宿直を任せる蔵人は、やはり一人でもある程度判断力や決断力を発揮できる能力を要求されますので、必然的にベテランの人間が執り行うようになっています。

蔵の雰囲気は、昼の賑やかさとはガラッと変わり、静けさの中に機械音が僅かに鳴り響きながら、ややお化け屋敷的な感じも否めないというところでしょうか。

宿直の大変なところは、やはり眠さとの戦いです。どうしても宿直が頻繁になる時期が続けば慢性的な睡眠不足になりがちになりますし、疲労がぬけないでダルさが続きがちに。更には、寒い季節ですと起きるのが大変です。布団から出て、麹室まで行くのに一度外を歩かないとならないので、体が冷えてしまったり、室内との温度差で風邪をひきやすくなったり。

体力勝負ですから、要領よくなるべくチェックに向かう回数は、必要最小限に留められるように、場数を踏んで仕事に慣れることは、結局自分に対しての負担軽減につながるのです。

僕も若手の頃、よく色んな先輩と宿直を経験させてもらいましたけど、決断力や優柔不断な人はチェックに行く回数は平均的に多くなりますし、そういう先輩と一緒の夜はこちらも疲労度に対して覚悟しないといけません。

一方、できる先輩との夜は安心です。バタバタしないですし、判断も早いので指示を受ける側も楽です。

そういう若手の頃の経験は、今となれば「こうあるべき姿」として後輩達へ接する時の良い教訓となっています。

今夜は山田錦大吟醸用の麹造りです。
高品質な日本酒造りの第一歩にしたいですね。