金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

お正月。酒飲んでますか?

蔵全体の仕事はお正月のため3日までお休みとなっております。しかし、連日当ブログで申し上げている通り、杜氏の僕に「完全休」はありません。

 

モロミのチェック、酒母の管理、機械設備の電源チェック、FAX・メールの問い合わせなど、ずっと蔵に常駐するわけじゃありませんが、朝と夕方の2回ほど蔵へ車を走らせます。

いやあ、空いてますね。道路。

そろそろ帰省帰りのラッシュになるのでしょうけど、仕事に行く身の僕としては「お正月大歓迎」です。

 

日本酒が一番うまい時期はやっぱり正月でしょうね。

僕も夕方のチェックが終わって帰ってきた後、こうしてブログを書きながら「飲んでます」。今飲んでるのは自分たちの酒です。色々と諸事情があるため、僕が造らせてもらっているブランド名を「今は」出せませんが、造った過程を知っているからこそ、また格別の味わいを楽しんでおります。これも造り手の特権の一つなのでしょう。

 

これまでうちは4名のスタッフで回してきたんですけど、夏に2人が諸事情で退職しまして、9月からの新シーズンは新たに3名補充して何とか最も繁忙期の12月を乗り切ったところです。

 

まだまだチームとしては固まりきってはいないですが、みんな頑張ってくれていますし、お酒造りが解らないながらも自分たちなりに一日一つでも何かを掴みたいという姿勢は見せてくれているので、こちらもとても頼もしく感じているところです。

 

僕はこれまで20年の酒造り歴になりますが、実は櫂棒(かいぼう)というモロミを撹拌する長い棒を持たせてもらうまで約3年かかりました。そう、テレビでよく見るあのシーンですよ!タンクをゆっくりかき混ぜている様子を見たことあるでしょ?

僕が最初に入った蔵は若手が多く、当時はまだ地方から出稼ぎに来ている蔵人衆もいらっしゃったので、酒造りに関する「コアな部分」を触れるのに「順番待ち」をしなければなりませんでした。

 

当時の僕は今以上に酒造りに真っ直ぐでしたから、そういう徒弟制度的な慣習が嫌でたまりませんでしたし、ある意味悔しくもありました。そういった反骨心みたいなものが、その後の頑張りにつながったのかもしれませんが、今の蔵の事情を考えたら、3年も仕事を取り上げて「見て覚えてろ」なんて余裕は会社側にありませんから、この夏入ってきた3人には入社してきた「その日に」モロミをかき混ぜさせました。

 

僕は酒造りは自動車の運転によく似たものと思っていまして、見ているだけでは上手くなれないし、いかに場数を踏むかで上達のスピードが変わります。更には、免許をせっかく取得してもペーパードライバーだと実力は現状維持か落ちていってしまいます。

 

今の世の中に合わせて、今の人達に合わせた指導方法で臨機応変な対応を考えていく必要があるのではと考えているのです。

この夏入った3人のうち2人は未経験ですが、興味だけで入社してきて、酒をタンク1本仕込み終わったところで「こんなに酒造りって大変なんですね」って言われました。

 

僕は未経験の人間には、より酒造りの「厳しさ」や「苦労」を身に染みて感じてもらいたいというのがあるので、櫂棒以外にも触れられる範囲でどんどん仕事を経験させています。

 

僕らは酒造りの「プロ」ですし、興味本位の「酒造り体験」的な気分を早いうちに取り払ってやるという狙いもあるのです。初心者に仕事をやらせるのは、こちらも労力を要しますし、時間もかかります。もし狙った通りにその工程がいかなければ責任はこちらにきますので、はっきりいって大変ですが、彼らには半年後や1年後、更には3年先を期待していますから、今夜いただいている純米の生酒を一緒に商品化できたのはやっぱりこれはこれで嬉しいのです。

 

まだまだ、造りは続きますので色んな事があると思いますが、人造りと酒造りに邁進したいと思います。