金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

麹造りについて。

今夜は宿直です。

大吟醸の麹造りのため、それなりの労力を費やします。各蔵の製造環境はそれぞれ違いますから、うちの事情はあくまでもうちに限ったことですし、他のお蔵さんの手法や考え方もそういう製造環境に基づいたものから積み上げたものが多いでしょうから、お酒造りが上手な酒蔵のマネを部分的に取り入れたとしても、自分の蔵の製造環境がベースになったものでないと、うまくいくとは限らないのです。

うちの蔵は9月下旬から酒造りのシーズンが始まり、現状4ヶ月が経とうとしているわけですが、季節もその間移り変わっていくわけでして、麹造り一つとっても状況に応じた仕事を行わなければ、中々うまくいくほど酒造りは簡単にはいかないものです。

今夜の大吟醸の麹造りですが、精米歩合が50%の山田錦を使っています。いくら「酒米の王様」とはいえ、高精白の米はやはり難しいです。

更に、気温も暖冬とはいえかなり寒いですから、麹室の中は40度くらいの品温にしていても、外気の影響を全く受けないとはいかないものです。

僕はこの時期、麹の品温維持や保湿を目的に使用するアイテムとして「ホットカーペット」「ビニール」「厚手の掛け布団」と重用しています。

盛り仕事(もりしごと)という麹菌がこれから繁殖し始めていきますよというタイミングで10kg前後や2kg前後の箱に小分けにしていく作業があるのですが、うちの麹室だとどうしても品温が下がりすぎるので、予め室温設定を45度にしておき、更にホットカーペットを弱めに付けておくと品温降下を防止できます。

そして、小分けした麹がスムーズな品温上昇をするように、小さな穴を多めに空けたビニールをかけてやると保温と保湿効果が働いて、外気の影響を最小限に留められて、スムーズに麹君、麹ちゃん達が成長する後押しにつながります。

この時期はホントに冷え込みますから、ビニールとあわせて厚めの布団もそれぞれかけてやると、更に保険になり安心です。

鑑定官の先生の中には、こういった手法は自然の品温上昇とは言い切れない部分があるため、あまり同意をいただけない方もいるのですが、できあがった麹の成分分析をしてみれば、特別よくないというわけではないことが確認できています。

非常にマニアックで繊細な作業内容の話ですので、飲み手の方にとってはあまりリアリティが感じられない話かもしれませんが、我々造り手の創意工夫は、各蔵それぞれ無数の手法があることくらいは知っていただけたら日頃の苦労もちょいと報われる気がしています。

うちはうちの事情があって、色々考えたり試したりしてきた中での手法の一つを紹介いたしましたが、全国のお蔵さんの中に参考になりそうな所があれば試して頂ければと思います。

この時期の造りはかなり難しくなりますので、造り手のみなさんとは色んな情報交換が行われて、美味しいお酒ができあがるといいのではと考えてます。

というわけで宿直業務に入らせていただきま~す。