金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

2019年産 酒米のコンディション。

前からこのブログでお伝えしているように、僕らの蔵では現在、全国新酒鑑評会の出品に向けた造りが真っ最中となっています。

普段の仕込みで使う「お米」ですが、大体12月にもなれば早生型から晩成型まで、その年度に刈り取られた「一般米」も「酒米」も全てが出揃います。

どこの酒蔵でも「今年の米はさぁ~」なんて会話が成されるわけです。

うちの蔵では、一般米と酒米を合わせて今シーズン8種類を使用米とさせてもらっていますが、一番主要な「山田錦」に関して記してみたいと思います。

山田錦は多くの県で栽培されていて、酒米の王様と呼ばれるほど「造って嬉しい、、飲んで美味しい」って感じで、とても使い勝手の優秀な酒米です。我々酒蔵が買い取る末端価格は、大体¥25000~¥30000くらいが相場となっています。

高いんです!

農家さんにとってはご苦労が伴いますから、妥当かちょっと物足りない位の感覚かもしれないですけど、他の酒米相場が¥15000~¥18000くらいですから、「買う側」からしたらやっぱり王様だからなぁということになりますよね。

米のコンディションて、その夏の気候がどういうものだったかで決まります。

おおざっぱに申し上げて、暑い夏は硬化し冷夏だと軟化します。

米それぞれに特徴があって、「硬化、軟化」は米の種類によって異なるのですが、山田錦に関しては、「軟質米」というのが基本でして、程よくモロミで溶けてくれてとても使い勝手がいいのが評判です。

全国的に2019年の夏がどんな風だったかと回顧すれば、7月メッチャ涼しい、 8月メッチャ暑い、9月不安定、だったかと思います。出穂(しゅすい)と呼ぶ稲穂が出る時期の気候が特に米のコンディションに影響を及ぼすと言われてまして、山田錦は8月の後半がその時期に当たるのです。

やっぱり太陽には逆らえないっすよ!

硬い!

とにかく溶けない!

おそらく全国の造り手さん達の感覚はそうでしょうね。酒米の中でも一番優秀な山田錦がそんな状況ですから、いかに2019年の夏の天候がある意味「異常」であったかを示しているのではないかと思います。

更に、山田錦は精米を施した後、意外と割れるため、割れた分も「溶け」に影響を及ぼすのが普通ですが、2019年産はベースが硬いので、割れた分もあまり溶けてくれないという現象が今年は起きています。

造り手泣かせ!

溶けないと味が乗らないし、酒粕が増えて不経済な酒につながります。鑑評会に向けた酒質としても、普通に造れば平板で膨らみやソフト感に乏しく、何となく寂しい大吟醸に仕上がる可能性が高くなるでしょう。

造り手の創意工夫の見せ所でもあると思いますので、飲み手の皆様、2019年産の山田錦で造られた日本酒に注目してみて下さい!

酒造りバカになるな!

日本酒に関する日本酒製造現場からの情報発信ということで当ブログは運営させていただいているわけですが、今日は令和時代の未来の「杜氏像」「蔵人像」を模索してみたいと思います。

伝統産業の世界におりますと、昔ながらの慣習にとらわれすぎてしまうところがあったり、固定観念や先入観に影響を受けすぎてしまうところがあるのも事実です。何となく「前からこういう風だった」という空気に流されてしまうことも多いので、気を付けないといけないと思います。

その世界にどっぷりと浸かり、その世界で自分が生き抜いていけるように、「慣れる」のももちろん大切で、まずはそちらを優先しながら、俯瞰的にその業界を眺めてみるといった「余裕」が生まれるまでは、どんな世界でも一定期間の苦労や努力は必須であるとも考えてます。

話を日本酒業界に特化した形で進めますが、これまでの「造り手」は酒造りのみやっていれば良かったといって良いと思います。出稼ぎ型の杜氏集団の雇用形態は、雇う側の蔵元側にとっても都合がよくて、ある一定期間のみ決められた仕事の範疇をこなしさえよければ労使関係は良好でした。

この形は、現在の「社員杜氏」「社員蔵人」の雇用形態に変わっても、業務期間は通年になりましたが業務内容にさほど変化はありません。

確かに、人員削減でどこの酒蔵もスタッフにそれほど余裕があるというのも珍しいとは思いますので、製造以外の業務(ビン詰め、出荷、配達、営業)を兼務したり、臨機応変にお互いの分野を応援し合う形を取っている所も少なくないんじゃないでしょうか?

酒蔵で働く限りは、その道の「プロ」として日々それぞれが努力を積み重ねていくことは大切なことです。造り手であれば製造に関すること、出荷に関する業務に関わっている人ならその分野のことなど、自分の「仕事」に関することは結構みなさん一生懸命勉強するんじゃないかと思うのです。

しかし、飲酒人口の減少が明白な今となっては、これからの日本酒業界が更に厳しくなっていくのは当然で、これまでの「決められたことだけ」の仕事の勉強や視点だけでは通用しなくなると思います。

日本酒製造に関する情報も、昔と違ってネットなどで簡単に知ることができますし、造り手同士の横のつながりも随分風通しが良くなって、お互いの情報交換は円滑な時代になりました。

結局のところ、全ての業務は「お金」に通じていますから、どうしたら実入りがより多くなるのか?を各セクションで働く人達が意識して関われたら、今まで見えていなかったことが見えてきたり、別々のセクション同士の意見交換や新たな連係など、「気付き」のきっかけになることも多いような気がします。

いくらのコストでいくらで売れて、結局手元にいくら残ったのか?

酒蔵みたいな比較的家族経営を敷いている会社で働く従事員の方々で、自分が働く会社の「年商」を知らない人、意外と多いんじゃないでしょうか?

会社側の方も、ただ「頑張れ」って言うんじゃなくて、「どう頑張るか」を伝えるべきで、その辺が曖昧の会社って未来あるの?って疑問です。

経理に関わる社員で「簿記」を知らないで税理士さんに言われるがままの人はそのうち「クラウド会計」にとって変わられてしまうでしょうし、仕込みに使う酒米の値段を知らずに「金賞、金賞」って意気込む杜氏さんはやっぱり考えものだと僕は思うのです。

酒蔵で働く人達がちょろっと「お金の意識」を持つことと、多くの蔵元さんが少しでも「財務事情」を元に改善策を提案できると、業界全体が更に良くなっていくことにつながるのではないでしょうか?

「経営視点」が令和の酒蔵が生き残る一つのヒントです。売上の良い酒蔵は何で良かったのかをみんなで議論すべきです。売上の良くない酒蔵は、あんまり諸事情を公開したくない気持ちは察しますが、何かを変えなくては現状に変化はありませんから、従業員の意見も聞いてみるのも良いでしょう。

昔ながらの伝統産業は、そういう暖かさというか、「ファミリー」であると感じられる空気があるかないかで、社員のモチベーションが変わるのです。

厳しい時代に突入していくわけですから、なあなあは良くないですが、ちょいとみんなの意識が高くなるだけで、行動が変わってくるのではないでしょうか?

成人の日に日本酒を!

世間は3連休真っ只中!

僕ら酒造り職人は、カレンダーではなく「仕込み予定表」を基準にスケジュールは決まります。よってこの3連休も当然「全出勤」!

成人の日が絡んでの3連休だそうで、思わず自分の成人の日を思い返してしまいました。ドカ雪でね。大雪で大変でした・・・ 多くの新成人の方々は、比較的晴天に恵まれた晴れの日を過ごされたこととお喜び申し上げます。

さて、当ブログは「日本酒」に関するブログですから、せっかくなので成人の日と日本酒をテーマにお送りしたいと思います。

20歳になれば日本の法律では「飲酒」が認められます。まだ自分が「飲めるタイプ」か「飲めないタイプ」かわからないでしょうが、乾杯して一杯できる権利を得たのは大人の階段を確実に一段登れた実感を覚える瞬間だと思います。

僕が始めてお酒を飲んだのは、小学生の時でした。
リトルリーグのキャプテンをしていた時に、新春のグラウンド開きの催しがあり、清めの一杯が「初飲酒」です。別に飲まなくても良かったんですけどね・・・
きっと子供心に変な責任感が芽生えてしまったのでしょう。

今でもはっきりその「味」を覚えているんですけど、マジで「不味」かった。

アルコール臭満載で、ザ・酒って印象でした。今思えば、きっと三増酒だったのかもしれません。もう30年も前の話ですもん!

自分は運が良かったのかどうかわかりませんが、日本酒初体験の印象があまり芳しくなかったタイプですが、その後の嗜好が決してお酒類を敬遠することなく、更にお酒を造ることを仕事に選んでしまった人間ですけど、やはり最初に飲む一杯は、美味しい酒であることに越したことはないと思いますし、日本酒を最初に飲まなくても、それなりに高品質とされるお酒類を人生初体験の酒にしてもらえたらと思います。

僕は造り手ですから、自分が手掛けている日本酒は全て新成人の方々に自信をもって「初体験酒」としておすすめできます。うちの風味事態が日本酒初心者の方やこれから日本酒を飲みたいと考えている人達向けの設計になっているということもありますが、まだ自分にどんな酒が合うのかわからない時期には迷わずうちの酒を試してみたらきっと楽しい「飲酒人生」のスタートを切れると思います。

これから益々「飲酒人口」は確実に減少していきますし、若い人達の日本酒業界新規参入は僕達としたら「大歓迎」しちゃいますよ。

最近の成人の日の式典では、ちょいと昔ほどやんちゃな新成人の人達は減っているような感もあるから大丈夫だとは思いますけど、どうか日本酒を罰ゲームの一気飲みの酒などには使わないで欲しいと願います。

僕らは日本酒を「命を削って」造っている自負がありますから、勢いやノリだけの飲酒スタイルだけはご遠慮ください。これは、ベテランの飲み手の方々も同様です。

自分のペースで、ゆっくりのんびり、雰囲気や相手を楽しむように、ほっこりする一時を日本酒で彩って頂けたら嬉しいです。

日本酒業界としても、もっと新成人が快くお酒を楽しめるきっかけになるようなイベントを企画できればいいのではと考えます。大事なお客さんですから。飲酒=ファッションみたいな感覚で新成人の方々には日本酒に触れてみてはいかがでしょうかとご提案したいっすね。

若い女の子がグラスで日本酒飲んでる姿なんてかわいいじゃないですか~

日本酒造組合を挙げて、業界全体で盛り上げられたら強力な発信力になりますしね。

今夜は「成人の日の夜」ですから、成人の皆さん、大いに飲酒をお楽しみ下さい!おめでとう!

出品酒造りスタートです。

全国新酒鑑評会に向けた「出品酒」造りがスタートしています。

おそらく全国各地の酒蔵で、同じような光景が「今」見ることができるのではないでしょうか?

作業に関わる杜氏さんや蔵人さんは、そりゃ命懸けですよね。

もちろん僕らも「命懸け」です!昨年の成績はすでに過去のこととして、今この瞬間の戦いは5月の審査発表の時のその時のために、できることの全てをやるというのが出品酒造りになるのです。

その蔵の技術と知識を競うわけですので、気合いの入り方が違います。

うちの蔵の事情としては、昨年はスタッフ4名で挑みましたが、今年はそのうち2名がぬけて、替わりに3名入ったという現状がありますので、本当の意味で「ゼロスタート」ととらえてます。

僕が日本酒業界に入ったおよそ20年前に、宿直仕事の合間などに親方などからよく聞いた話ですが、杜氏さんによっては、鑑評会出品酒に対する「プレッシャー」を過度に感じすぎてしまって、審査発表がなされた時の結果によっては、故郷に帰省する前に自らの命を絶ってしまう方もいるんだということもあったそうです。

金賞に輝けば、お酒はある程度売れますし蔵元からの期待はかかります。お客さんからもそれなりに激励を受けたりもするでしょう。そして、製造チームのリーダーとして蔵人達に造りの方向性が正しいことを示すためにも、杜氏さんは色んな「プレッシャー」を感じるものだと思います。

しかし、鑑評会が全てではないですし、販売されたり飲んでいただく頻度が圧倒的に多いのは「市販酒」ですので、そこは過度な負担を感じすぎない程度の「割りきり」も大事なのではないでしょうか?

命、取られるまではねぇ。

だから、蔵元さんや蔵人さん達も、出品酒造りへの気合いが入るのはもちろんですが、杜氏さん方の気苦労や孤独もそこには確実に存在していることを知っておいてもらえたら、少しでもチームとしての「和」がキープされるのかなぁとも思いますので、杜氏さんがもし困っていたり、悩んでいる表情を感じたら、タイミングを見ながら気配り・目配り・心遣いなどができたら、親方も「ほっこり」する瞬間が生まれるかもしれませんよ。

是非全国の出品酒チャレンジに入っている杜氏さんや蔵人さん方、よりハイレベルな争いができるよう頑張りましょう!
そして、5月にはより多くの皆さんと健闘を称え合えることを望みます。

そして、日本酒ファンの皆さんやお酒に興味をお持ちの皆さん、多くの全国の酒蔵で現在行われている 「風物詩」を知っていただけますと幸いです。造り手は命懸けの挑戦をしています。是非、応援してください。素晴らしい吟醸酒がたくさん世の中に出回ることを願いながら仕事に励みます。

麹造りについて。

今夜は宿直です。

大吟醸の麹造りのため、それなりの労力を費やします。各蔵の製造環境はそれぞれ違いますから、うちの事情はあくまでもうちに限ったことですし、他のお蔵さんの手法や考え方もそういう製造環境に基づいたものから積み上げたものが多いでしょうから、お酒造りが上手な酒蔵のマネを部分的に取り入れたとしても、自分の蔵の製造環境がベースになったものでないと、うまくいくとは限らないのです。

うちの蔵は9月下旬から酒造りのシーズンが始まり、現状4ヶ月が経とうとしているわけですが、季節もその間移り変わっていくわけでして、麹造り一つとっても状況に応じた仕事を行わなければ、中々うまくいくほど酒造りは簡単にはいかないものです。

今夜の大吟醸の麹造りですが、精米歩合が50%の山田錦を使っています。いくら「酒米の王様」とはいえ、高精白の米はやはり難しいです。

更に、気温も暖冬とはいえかなり寒いですから、麹室の中は40度くらいの品温にしていても、外気の影響を全く受けないとはいかないものです。

僕はこの時期、麹の品温維持や保湿を目的に使用するアイテムとして「ホットカーペット」「ビニール」「厚手の掛け布団」と重用しています。

盛り仕事(もりしごと)という麹菌がこれから繁殖し始めていきますよというタイミングで10kg前後や2kg前後の箱に小分けにしていく作業があるのですが、うちの麹室だとどうしても品温が下がりすぎるので、予め室温設定を45度にしておき、更にホットカーペットを弱めに付けておくと品温降下を防止できます。

そして、小分けした麹がスムーズな品温上昇をするように、小さな穴を多めに空けたビニールをかけてやると保温と保湿効果が働いて、外気の影響を最小限に留められて、スムーズに麹君、麹ちゃん達が成長する後押しにつながります。

この時期はホントに冷え込みますから、ビニールとあわせて厚めの布団もそれぞれかけてやると、更に保険になり安心です。

鑑定官の先生の中には、こういった手法は自然の品温上昇とは言い切れない部分があるため、あまり同意をいただけない方もいるのですが、できあがった麹の成分分析をしてみれば、特別よくないというわけではないことが確認できています。

非常にマニアックで繊細な作業内容の話ですので、飲み手の方にとってはあまりリアリティが感じられない話かもしれませんが、我々造り手の創意工夫は、各蔵それぞれ無数の手法があることくらいは知っていただけたら日頃の苦労もちょいと報われる気がしています。

うちはうちの事情があって、色々考えたり試したりしてきた中での手法の一つを紹介いたしましたが、全国のお蔵さんの中に参考になりそうな所があれば試して頂ければと思います。

この時期の造りはかなり難しくなりますので、造り手のみなさんとは色んな情報交換が行われて、美味しいお酒ができあがるといいのではと考えてます。

というわけで宿直業務に入らせていただきま~す。

日本酒業界の今

前のブログでお話ししました通り、うちの蔵での増税後の売上状況がいかなるものか、贅沢品を取扱う我々の現状を報告させて頂きたいと思います。

 

10月に消費税増税が8%→10%に引き上げられまして、キャッシュレス決済の還元や軽減税率対象の物品で万全を期したとの政府からの発表でしたが、「うちの会社に関して」ですが全く裏目に出たと断言して良いでしょう。

 

9月の駆け込み需要はボチボチといった具合でしたが、10月の売上は前年比約80%、11月は約85%、そして12月は90%という結果でした。

 

12月は日本酒業界も当蔵も1年で一番商品が動く時期なのですが、この時期の-10%はその分額が大きく、3か月連続のマイナスは、今期のトータルを予想すれば極めて「厳しい」結果となりました。

 

上記はあくまでも当蔵の事情ですが、昔よく使われた1升ビンの動きはかなりの鈍化傾向にあり、それはいわゆる飲食店向けに酒屋さんが仕入れていくロットになるわけで、その仕入数が減っているということは、おそらく居酒屋さんやお酒を提供している飲食店さんも我々同様厳しい年末になったであろうと予想できます。

 

一方、720mlビンや300mlビンの動きは現状維持か微増といった具合でございまして、おそらく年始のご挨拶に手持ちしやすい容量を選択される方や、家飲みされる方が多かったのではと予想します。こういった「小瓶化」は飲み手の更なる「少量多品種思考」が進んでいることにもつながっているようでして、また普通酒などの定番酒から特定名称酒思考にも飲み手のマインドが変わってきているのではないかと考えます。

 

結局のところ、売上が下がったのは「増税の影響」が一番大きいと考えて間違いないと思いますし、更に消費者の財布のひもが固くなったことにつながり、小瓶化や節約することに行動割合が増えているというのが日本酒業界の現状ではないでしょうか。

 

年が明けて令和2年、僕は益々上記の現象は顕著に進んでいくと予想します。

 

これまで日本酒業界をけん引してきた「獺祭」の国内売上も頭打ちになってきている様ですが、6月、7月くらいでキャッシュレス決済の還元キャンペーンが終了し、8月に東京オリンピックが終了した後の10月~12月の日本酒需要は更に厳しくなっていくでしょうし、状態が深刻化していく蔵も増えていくのではと考えています。

 

もちろん当蔵も例外ではなく同じで、今年の分を来年取り返そうと思っても、そんな簡単にいきそうな「要素」が見当たりません。

 

僕は造り手ですから、良いお酒を少しでも多くの人々に飲んでもらえる酒造りを頑張るのが仕事ですけど、年明け早々、結構な危機感を感じながらの仕事初めとさせてもらってます。

 

まずは、前年割れをどこかで食い止めるところからってところでしょうか?

 

ある程度体力勝負になってきそうな予感もしているので、色んな意味での覚悟も必要なのかもしれません。

皆さんの業界事情はいかがでしょうか?

 

 

 

 

日本酒と酒粕と精米とヌカと。

本日の業務は酒粕のビニール詰め作業と言うのをメインで行いましたので、ちょっとそんなテーマでお送りしたいと思います。


日本酒を造るには、基本的に「精米」という工程が必須となります。

なぜなら、お米の外側には特に栄養分が豊富で、清酒酵母がそれを取り込みすぎると発酵が旺盛になりすぎたり、その栄養分のせいでお酒が「汚く」なったりするのです。
お酒が汚くなるってのを、もう少し解りやすく表現するなら『ボリュームを感じやすくなる」とでも言いましょうか、コクがあるとは違って幅があるけど心地良くない「野太さ」みたいな感じです。

よく「おいしいお米で日本酒を造れば、やっぱりおいしいお酒になるんでしょ?」って聞かれるんですがそれは違います!むしろ逆で、あんまりおいしくないお米で日本酒の仕込みを行った方が、より綺麗で上品な日本酒が仕上がりやすいのです。
お米の栄養分やおいしさは、日本酒では「雑味」に直結しますので、中々面白いところですよね。

そして、日本酒を造るには「搾り」の工程である上槽(じょうそう)を行う必要がありますが、この上槽という作業は、日本酒の液体部分と酒粕の固形部分を分離する作業とも言えるわけです。酒粕は日本酒造りの副産物ですが、この酒粕に注目すると、酒粕を魚や肉などに漬けこんだりして旨味を引き出そうという狙いならば、精米歩合の低い米でお酒を仕込んだモロミを搾った酒粕で漬け込んだ方が栄養分が豊富で、たんぱく分解酵素もたくさん含まれている為それぞれの素材の旨味が増幅しやすいです。

一方、高精白の精米歩合50%とか40%のお米で高級酒を造ろうとしたモロミを搾ってできた酒粕は、栄養分が少なく旨味を引き出そうにもちょっと物足りなくてあっさりしすぎるというように狙い通りにいかなくなってしまいます。

まとめると、食べて美味しいお米→お酒にとってよくない  食べて美味しくない米→お酒にとっておいしい   旨味を引き出す酒粕→定番酒、レギュラー酒用   旨味を引き出しにくい酒粕→高級酒、特定名称酒
と言う具合です。素材をいかに活かすかは、どう使うかをよく考えて用途にあった使い方をしないとフィットしにくいですよというお話です。

ちなみに、精米によってそぎ落とされたヌカですが、「ゴミ」になるところはなくて、肥料・飼料・米粉(米パンや米麺)・釣り餌などに使われます。お米は外側が一番脂分やたんぱく質が豊富で、中心部に行くにつれてクリアなデンプン質になっていきますので、日本酒造りはいかに「綺麗なデンプン質で造るか」というのが良いお酒を造る基本となるのです。

最後に補足ですが、最近ではあえてお米をあまり削らずに、80%や90%の精米歩合で仕込んだ商品を出してくる蔵がありますが、造りの中であまり米を溶かさないようにしたり、麹菌を回さないよう工夫したり、モロミの品温経過を低温経過をたどったりして、低精白でも「きれいなお酒」に仕上げましたというある意味製造テクニックの付加価値を込めた商品造りというのも中々おもしろい試みだと感じています。

口に含んでみて「良いお酒だな」と感じやすいお酒の造りをたどると、高精白で、酒粕を大目に出す造りをしたものが、「綺麗で上品で軽い酒」に仕上がりやすい傾向にあります。いずれにしても、日本酒は農業の派生商品で、伝統工芸品であるとするならば、より「贅沢な造り」を行うことで高級酒を造りだすことができると言えるでしょう。お米ってすごいパワーを秘めていますので、皆さんもお酒のラベルを注意して見てみて下さい。きっと精米歩合や米の種類で、どんな味わいかを想像するヒントにつながると思います。もちろん、スーパーなどで陳列されている酒粕も、色合いや手触りでどんなお酒のタイプを造るためのモロミだったのかわかるかもしれませんから、じっくり観察してみることをお勧めします。