杜氏のガラパゴス化。
以前掲載された、毎日新聞の記事を紹介したいと思います。
以下のグラフはここ約50年の杜氏と蔵人の数の推移を表したものです。
世の中働き方改革だのロボット化だの色々議論がなされておりますが、青い棒グラフの減り方は尋常じゃないくらいの急降下を確認できます。更に、赤い棒グラフは杜氏数ですが、青い棒グラフまでの急降下ではないにしても、徐々に下がり続けているのがわかります。
杜氏は蔵に一人が原則ですので、杜氏が減っているということは、蔵の数も消滅していることも言えると思います。
日本酒業界は現在、蔵の存続と造り手の確保が大きな課題となっています。
僕らがこの世界に入った20年ほど前には、たまに親方のお付き合いでお燗番なんかをしていると、「杜氏になれば、5年もやれば立派な家を建てられる」なんて聞かされたこともよくありました。親方は、やりがいもあるし実入りも期待できるんだから、この世界に入ったからには杜氏を目指せって僕を含めた若手に期待をかけてくれていたのですが、実際、杜氏になってみて・・・・・
時代は変わりましてって感じですね。
今は杜氏を置かずに、オーナー杜氏って言われる蔵元が杜氏を兼ねるスタイルが主流になってきています。一見、斬新なプレーイングマネージャー的にメデイアなどで取り上げられたりするのですが、本音は、リストラの部分も理由として大きいのです。
それほど生産量を見込めない社会情勢の中、高い給料で杜氏を雇って同時に各セクションごとに蔵人を配置するという昔のスタイルで蔵を維持することは難しい時代になったのです。
日本酒の製造現場では、多能工化を進めて行かないと業務遂行が難しくなりました。
僕も杜氏だからって造りだけ専念とは到底いかず、配達に出たり見学の案内役をしたり酒屋さんの販売応援に出たり。蔵人達も4人いますが、昔の3役(麹屋、酛屋、醪屋)は置かずに、持ち回りで誰でも同様の作業が可能なようにローテーションできる状態を取っています。
先ほど述べたオーナー杜氏でやられているお蔵さんでは、ある程度の量を造りながらも名のある銘柄であるところなどは、「杜氏はいないが杜氏役」に相当するナンバー2やナンバー3の優秀な製造スタッフの方がしっかり影武者していたりもします。
相当量造るとなれば、経営と製造は分離していかないと仕事が成立しないのが本当でして、蔵元自ら酒を造るというのは、全てが全てではないというウラも苦しい台所事情を表しています。
しっかりした技術と日々の研鑚によって得られた豊富な知識を持ち合わせる製造スタッフさん達はまだまだ多く存在しているのですが、どうしても出世しにくい会社事情や賃金形態の限界などがこのまま続くようであれば、必然的に前述の棒グラフは右肩下がりがまだまだ継続ということになります。
せっかくの卓越した技能を持ち合わせていても、報われないシステムになっていたらやっぱりそうなりますよね。
技術の伝承が途切れると伝統が消えていくことにもつながります。
蔵のノウハウが杜氏のノウハウになっている蔵も多いので、もし杜氏が辞めますってなったら蔵の存続に直結する問題にもなるのです。
これは酒蔵だけの問題にするのではなく、農家さん→蔵→販売先→消費者の業界全体で考えて行かないと難しい段階にいるかもしれません。
まだまだ日本酒業界は変わっていく必要があるでしょう。