金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

杜氏になるには。

めっちゃ寒いっすね~
僕が勤務している蔵は関東地方にあるのですが、今日は底冷えでした。底冷えするのは、お酒造りにとって、決して悪い環境ではないので、まあ良しとしましょう。

さて今日は杜氏になるにはどうしたらなれるのかという点について、語ってみたいと思います。

ちなみに僕は、文系の4年生大学を卒業し、直接酒造業界への門を叩いたのですが、大学、3年生の時の就職活動は、アルコール発酵というものに非常に興味を持って、ダメもとで酒蔵ばかりに面接のお願いをしていました。

ちょうど就職氷河期という時期にも差し掛かっていたので、普通のサラリーマンになるということよりも、どこかで手に職をつけた仕事に就きたいということもあったのかもしれません。

先ほども申し上げましたが、文系の学生にとって、バイオ的な分野である酒造りの世界は、特に大手蔵はその分野を専門的に学んだ学生を最優先で採用することくらい、当時の僕にもわかっていたので、中小で人手不足を感じさせるような、あくまでも素人のイメージでしかないのですが、ずぶの素人でも経験を積ませてくれるようなところを県内県外合わせて合計15社ほど面接のお願いをし、実際は4社から採用の内定をもらいました。

いきなりこちらから履歴書と簡単な志望動機を文章にしたものを、勝手に送りつけるわけですから、送りつけられた酒蔵の社長さんはびっくりしたことと思います。

もちろん不採用の通知すらくれない音沙汰なしの酒蔵もあるのですが、中には丁寧に直筆で断りの手紙をくれる蔵もあり、不採用となりながらもどこか納得感を覚える就職活動をしておりました。

大学時代は、出席日数もギリギリだし就職活動はそういうかなり偏ったものだったので、ゼミの先生にはかなり心配されましたが、なんとなく自分の中では見えない自信はかなりの強いものがあったので、チャンスさえいただければ何とかものにできるんじゃないかと考えていました。

色々と酒造業界を調べていく中でも、当時はすでにそれまでの杜氏制度がすでに崩壊し始めていた時代にさしかかっていたので、当時の酒蔵で働く平均年齢が60~70歳の割合に近かったと思いますし、10年なんとか頑張ることができれば、自分にもチャンスが巡ってくるんではないか、というイメージも出来ていました。

実際に酒造業界に入ってみて、最初の蔵で4年、次の蔵で3年、そして30歳の時にまた次の蔵に移ると同時に杜氏の職に就いてこれまで12年。
結構無茶もしましたし、蔵元とケンカしたりもありました。

ただ、経験のなかった自分が職人として成長していくためには、やはり経験を積むしかないですから、歩んできた道に後悔はありません。よく僕は、蔵人に話すときに、酒造りの経験を自動車の運転免許に例えるのですが、とにかくあらゆる酒造工程を見たり経験したりしないと上手にならないし、上手になるコツはいかにしてその場数を踏むのかにかかっているのではということを話します。せっかく運転免許を取得しても、運転をしないペーパードライバーのままだといくら年数が過ぎても運転は上手になりません。

お酒造りの経験も、遠慮して順番待ちをしているといつまでたってもその順番は回ってこないので、自分は何が足りないのか、何を経験すべきなのか、自分で自分のことをよく研究して、その都度そのタイミングで経験をさせてくれる蔵を選択してきたつもりです。

最初大学を卒業する時に、自分が40歳ぐらいになるまでに杜氏になれたらいいなあと漠然と考えていたのですが、そういったビジョンと行動してきたことで、想像よりも10年を短縮することができました。もちろん巡り合わせや運もあったと思うので、必ずしも全てが自分の力だとは思っていませんが。

自分がお世話になった先輩や仲間でも、今だに下働きや製造責任者になれずじまいの人は、結構多く知っていますので、本当に自分が杜氏になりたいのなら、いかに早くその打席に立てるようにするか、必死で考えながら行動することは重要なことではないかと思います。

現状の日本酒業界は、慢性的な人手不足に陥っていますので、特に20代30代の若い人にはチャンスがたくさんあるのではと思います。

僕がこれまで話してきた足跡は、あくまでも1例に過ぎず、あまり良いサンプルだとは思いませんが、日本酒業界に求められる人材は、経験、学歴、性別、国籍、年齢、全く関係ございませんので、本当にやる気があって、自分の酒を造りたいという強い気持ちをお持ちの方は、気になる酒蔵に、履歴書を送るなり、問い合わせの電話をするなり、蔵元さんに直接会って話を聞いていただけるようなアピールをできれば、きっとチャンスは生まれてくるのではないかと思います。

今まで記してきた通り、酒蔵の娘や息子じゃないとか、東京農業大学出身じゃないとか、全く関係ありませんから安心してください。

すべてはその人のやる気次第です。

お酒造りに興味がある方、伝統を継承しうる強い思いをお持ちの方は是非お待ち申し上げます。

今日はこんなところでおしまいにさせていただきます。おやすみなさい。