金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

酒蔵増えるか!?酒税法改正。

お久しぶりです。

先日、酒造業界にとって大きなニュースが飛び込んできました。

これまで「清酒製造免許の新規取得」は、現実的に認められないという大前提があったのですが、「輸出用製造限定」にて、新規での製造免許を認めるとの大綱が国税庁より発表になったのです。

日本酒を造りたくても、これまでは障壁が高くて新規参入しにくい土壌が当たり前だったのですが、輸出用に付き、という大前提が設けられているとはいえ、これは大きな第一歩ではないかと考えています。
新聞紙上で、蔵元さんのインタビュー記事などをいくつか拝見しましたが、まぁ皆さん心穏やかでないのは明らかで、よそ者、素人にうまくいくはずはない、うまくいって欲しくない、自分たちの特権分野を壊されたくない、という心情が本心のようです。

そりゃそうですよ。

日本酒業界は、製造免許の傘の元、これまでかなり「守られてきた」わけですから。
清酒製造免許には、毎年60000リットル製造しなければならないという最低製造基準があったり、中小零細の酒蔵には酒税に軽減税率が設けられていたり、新規のライバルを寄せ付けない策に加えて、多くの「特権」が認められた時代が長く続いてきたのです。

その中で、実際には最低製造基準に満たない蔵なんてザラにあり、日本酒は売れなくなったと嘆くばかりで企業努力を怠り、異業種参入に心配がない状況下での蔵元意識は、多くの業界の停滞感やマンネリを生んでいるのも事実なのです。

酒蔵経営は、この40年でそれまでの「良い時代」とうってかわって厳しい時代を歩んできました。今の若い人には考えられないかもしれませんが、40年昔ともなれば、酒=日本酒でして、お酒類としてのバリエーションの選択肢すら少ない時代だったわけで、消費者としてワインやビールなど、購入しようとすればできなくはないが、嗜好品としての酒のイメージは、間違いなく日本酒が大前提であることは揺るがない時代だったというわけです。

酒蔵としても、規模はあまり関係なく、造れば売れるし、造らなくても未納税として誰がが造った酒を仕入れて、自分とこのラベルを貼って出荷しても、それほどブランドイメージに影響はないといった具合でした。

いわゆる「殿様商売」だった時代が長く続けば、良くない体質や慣習などが常態化することもつながります。

その後の40年も、かなりの数の酒蔵が廃業、休業に追い込まれていくわけですが、令和の時代に変わって、スバ抜けて意識改革が進み、蔵元の代替わりなども後押しして、斬新な経営改革でぐんぐん業績を伸ばしている酒蔵も多いのですが、実際のところ、やっぱりまだまだ昔のままのマインドでのらりくらり存続している酒蔵も多いのが現実です。

国内需要は、この先人口減の影響で、販売量の先細りは鮮明で、日本酒も世界を相手に販路をグローバルに切り開いていくことで、業績アップを狙っていこう、というのがここ5年ほどの業界スローガンでございます。

が、

日本酒の輸出が好調というニュースは出ますが、まだまだ額は少ないわけで、国税庁としても更に日本酒の輸出を促進させるためにも、今回の策に打って出たというところでしょう。国税庁だって税収を安定的に徴収したいでしょうから。これからの厳しい時代を生き抜いていくために、あらゆる分野の意識改革が進んでいる証しでもあるわけですから、僕は今回のニュースは好意的に見ています。

最後に、輸出に関する清酒製造免許の認可によって、日本酒業界がどういう変化が出てくるのかを予想してみたいと思います。

まず、現在約1200蔵あると言われる酒蔵の数は、これまでのスピードより加速度的に減っていくでしょう。10年後の僕の予想だと半分残ればどうかという感じに。

今回の輸出限定製造免許をチャンスと捉えて参入してくる異業種は外資の企業が多くなるのではと予想します。日本酒を日本で製造するメリットは、やはり「日本酒」という地理的表示基準を満たせること。海外の現地製造では、関税の影響は受けませんが、ラベルに「日本酒」「清酒」と記載できません。更に、日本の酒米や水は、日本の独自の風土や気候からの恵みから由来するものですから、そこに付加価値を見出だす外資企業は少なくないはずです。

我々造り手も、より良い条件でのヘッドハントが起きるかもしれません。そして、造り手からの直接メッセージが色んな形で発信されたら、飲み手として新しい発見や知識として、更に日本酒を詳しく知る機会につながるでしょう。

輸出限定製造免許の交付によって、日本以外の国でもしそのブランドのブームが起きた場合、間違いなく日本国内への「逆輸入」現象が見られるようになるでしょう。そうなれば実質、既存の酒蔵にとっては更に驚異で、国内製造+販売への障壁は更に低くなっていくことにつながっていくと思います。

みそやしょうゆのように、専売特許がなくなった形で自由競争になっていくのか、これまでの酒蔵の力が依然として残り続けてあまり影響がないまま日本酒業界はゆっくり進んでいくのかわからないですが、変わり始めたら、どちらにせよスピード感を増して変化していくのではないかと思います。

早ければ、2020年4月からの制度施行みたいですので、随時動向を注視していきたいと思います。