金賞杜氏の日本酒情報局

日本酒製造現場からの情報発信

酒蔵で働きたい人へ。

今夜は出品酒の麹造りの宿直なので、仕事の合間でこうしてブログを書いてみたいと思います。

最近はあまり思わなくなりましたが、この世界に入った駆け出しの頃は、土日祝日休みの職種や会社に勤めている方が羨ましかったりした時期がありまして、そういう日に朝、車を走らせて出勤する際に異様に道が空いていたりすると「あれ?」って微妙な心境に陥ったりすることもありました。

段々そういう勤務形態にも慣れてくれば、キャリアアップや自己実現を意識するようになり、ある意味割り切りもできるようになってきたように思います。

昨今の「働き方改革」で言われる、時短勤務や残業撲滅を強く意識する人は、日本酒業界に飛び込むことは間違ってもしない方が良いのではないかと思います。

酒造りという仕事を続けていくには、醸造というキーワードに常に探究心を忘れてはならないですし、微生物を扱うため、微生物の都合に自分の生活を合わせる柔軟性も重要です。更に、大抵のことでは動じない強い信念や覚悟も必要ですし、風邪やケガに強い体力も備わってないと、不慮の事態が頻繁に起こりうる酒造りを行う上でいちいち一喜一憂しているほど甘い世界ではないのです。

かといって、ど~んと大きく構えているだけではダメで、チームワークに敏感でなければならず、周囲がよく見えているかどうかのデリケートな部分も人間関係が密接に関係する職場環境においては切り離せない要素とも思うのです。

うちの蔵人にもたまに言うことですが、「作業は教えられる」けど「感覚は教えられない」とも思います。

お料理番組でよく「お塩少々」って表現ありますよね。少々っていわゆる「お好みで」ってことですが、勘やセンスのない人ってすぐ「少々って何gすか?」って聞いちゃう。きっちりした指示を言われた方が安心するのかもしれないですが、そういう感覚の人はまず日本酒製造の現場では苦労が多くなるでしょう。

「何回かき混ぜたらいいですか?」「何分置いておいてらいいですか?」など、現場では数知れずの数や量を限定的な分量で指示を求められることが多々あります。

そういう時の僕の答えの多くはこうです。

「だいたいで。」

きょとんとした蔵人の表情が楽しくもあるのですが、人がやる作業を間近で見たり、自分で勉強したり情報を少しでも取り入れるような意識を持ち合わせていたら、質問の仕方が少々変わってくるんじゃないかと思いますから、僕はそのように答えて「考えること」を促します。

仕事としてそういうやり取りが多くなる蔵人は、やっぱり長続きしないように思います。一見熱心に質問ができて探究心が強いように見えるのかもしれないですが、むしろ逆で、できる蔵人はサラッと何事もないようにその指示をイメージできて行動し、ひょうひょうとした雰囲気で次の指示に意識を向けていたり、やるべきことに手をつけ始めたり動きが早いという特徴があります。

もし、普段の生活の中で上記のことが思い当てる節があるような人は、日本酒業界はやめておいた方が無難です。

ただ、厳しいことばかりではなく、この仕事はセンスや醸造理論を努力で頭に入れておけば、学歴や資格は必要ないですし、性別、国籍ももちろん不問です。「やる気」があればある程度のレベルまでは登り詰めていけるでしょうし、実際に昔の杜氏さんはほとんど「中卒」ですから。

経験や勘がものをいう世界という部分は現在も大きいのです。

日本酒業界はいたって「人材不足」ですから、熱い志の持ち主のあなた!是非一度考えてみる価値はあると思いますよ。

っていうことで仕事に戻りま~す。